空に吹く、風の音を教えて。

「誰捜してんの?」


背後で声がしたのにピクってなって、

でも真っ直ぐ前を見つめていると、

水槽に姿が映った。

私の右隣。

私より頭1個分くらい大きい彼が並んだ。


「…」

「……」

「…あ、エイ」


彼が私に近づいて来たエイを指差した。


「良かった…。来てくれた」


私がそう呟くと彼…浅羽くんはぎこちなく微笑んだ。

…あ。

そう、なるんだ。

なら、

じゃあ、

忘れたわけじゃなかったんだ。

あの日の、約束。


「エイ、好きなの?」

「まぁ、うん。ほとんど初めまして、だけど」


そこで会話が途切れる。

胃がシクシクするほどに張り詰めた空気。

なんか言わなきゃ。

なんか、

なんか、

なんか…!

って、思えば思うほど、

頭が真っ白になっていく。

聞きたい気もする。

聞かなきゃならない、気がする。

けど、

けどね、

……。

きっと、

たぶん、

私は…

怖い、

んだと思う。

あの日で止まった時計を動かすことが、

真実を突きつけられることが、

それを受け止めなきゃならないことが、

怖いんだ。

…やっと、

やっと、今少し、

少しだけ、見えたよ。

自分の気持ち。


「また会えるって…思ってなかった」


口から自然と溢れた。

浅羽くんがこっちに視線を向ける。

私はじっと前を見たまま言った。


「待ってたよ、私」


あの日もずっと、

ずっとずっと、

待ってた。

腕時計もスマホもなかったから、

空の色だけが時の流れを教えてくれていた。

頼りだった。

まだ青かった空がだんだんと薄いピンクとオレンジと混ざり合って、気づいたらネイビーになってて。

来ないなって悟って帰って時計を見たら19時過ぎてて。

お母さんにどこほっつき歩ってたのって叱られて。

謝っていつもの2倍お手伝いをして許してもらって。

疲れ果てて眠りについて。

朝が来て、

いつも通り身支度をして登校して、

教室のドアを開けたら、

おはようって声がして。

…じゃなかった、よ。

声なんてしなかったよ。

それから何度朝が来ても、

おはようはなくて、

茜空を見つめる私に、

また明日は無かった。

あ、本当に、

本当にいなくなっちゃったんだな。

そう、実感した。


「あのさ、ほずみん。俺…」