「早くしろよ!」
「……無理」
あたしは静かに呟いた。
きっと、由依に届くほどの声量じゃなかったに違いない。あたしの言葉は空気を彷徨って、夕陽の空に消えて行く。それでも、あたしの表情を見て、カフェオレ色の瞳が真っすぐと向けられる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「受け止めてやるから」
ゴミの中で手を広げる由依は、全然格好よくなかった。
ゴミが臭そうだし、ゴミにまみれた捨て犬みたいだ。なのに、あたしはゴクリと唾を飲み込んで、由依の言葉に覚悟を決めた。助走をつけてジャンプをしようと、後退した時だった。
「落ちろ」
どこから聞こえたかわからなかった。低い声が鼓膜を揺さぶって、背中を強く押された感覚がした。
「……え?……ちょっ!!!」
バランスを崩したあたしは、夕陽の輝く真っ赤な空に飛び込んだ。体がふわりと宙に浮かんだ感覚は一瞬で、重力に従って、自分の体が落ちていく。
バキバキバキ。風の抵抗によって傘はあっさりと骨組みが折れて、あたしの未来を予想するように空中で壊れた。
「バカ!!!!」
背後で騒がしいツルの集団の歓声と、由依の焦った叫び声が路地裏に響き渡った。
遠のく空に、勢いよく迫る地面を背中越しに感じていた。
ゴミの山の頂上から、由依があたしに手を伸ばす。
指先が触れ合って、離れた。
カフェオレ色の瞳が大きく見開いて、由依が大きく身を乗り出した姿が見えた。先ほどまで真下にあった由依の姿を見上げるように落ちていくのを感じて、あたしは結末を悟った。
ドオオオオオオオオオン。
鈍い音が響き渡って、あたしは目を閉じた。
