小悪魔DOLL【Ⅰ】



掴んでいたパーカーの感覚が無くなった。

それと同時に、目の前にいたはずの由依も消えた。素早く地面を蹴った由依が跳躍して、くるりと宙返りをした。まるで、ステージに立ったアイドルのように、軽やかにバク宙を繰り出した由依に、あたしをはじめツルの集団も目を見開いて、子犬の姿を目で追った。

タンと地面に舞い降りると、ニィッといたずらっ子にように笑う。


カフェオレ色の髪が、ふわりと揺れ動いた。息を飲んでいたツルの集団が、呼吸を再開するとともに奇声にも似た歓声を轟かせた。そして、手を伸ばして子犬系アイドルYUIに触れようとするツルたちを、華麗に避ける。

あたしの背後まで逃げて来た由依が、あたしの頭に勢いよく悪役マスクを被せた。突然被せられたマスクに、あたしは視界を遮られ、ミルクティーの髪がマスクの中で顔に張り付いて、呼吸を奪う。


「何すんのよ!!!!」

目の位置と口の位置を素早く直して、あたしは叫んだ。

コイツ、あたしをおとりにして、逃げるつもりに違いない。

マスクを被った狭い視界に、迫ってくるツルが見える。

由依の姿が見えない。振り返ってみれば、屋上の端でこちらを振り返った由依がいた。カフェオレブラウンの瞳があたしを見据えて、口角を上げる。ツルが迫って来ているにも関わらず、落ち着き払った由依に、あたしは目をパチパチさせた。


「お前、それ脱ぐなよ。お前の顔がツルにバレたら、あぶねーから」

そう言い残して、由依は飛び降りた。

二階建ての屋上から、飛び降りたんだ。

心臓が、強く収縮した。