小悪魔DOLL【Ⅰ】



「わぁー!!前が見えないよぉー!!あいくちゃぁぁーん!!!!」

「前と後ろ、反対に被ってんじゃないわよ!!!!」

おたふくのマスクを被ったシオンに向けて、悪態をついた。

「あいく、おいで」

「優空きゅぅぅーーーーん!!!!」

優空があたしに差し出した手に、シオンが飛びついた。

おい!何飛びついてんだ!!!

「プランB!!」

「プランBって、何よ!!!」

「てんでん散り散り!!!」

由依が大声で叫んだ。

その掛け声とともに、全員が各自バラバラに散って行く。優空がシオンの手を引いて、右の路地へと入り込んで行く。王子の後ろをついていくシオンは、バタバタと大きな足音を響かせて、必要以上に優空にしがみついていた。


「あいく、ボクたちが皆を守るんだ」

由依のすぐ後ろを走っていた樹理がわざわざペースを落として、あたしの隣で走り出す。まるで由依から与えられたマスクを装着して、気まぐれ子猫から正義のヒーローに改心したみたい。そんなキャラじゃないくせに。

「守るって、……なによっ?」

あたしは悪役マスクを左手に握りしめたまま、大声で聞き返した。

あたしは忘れていた。この猫かぶりがいつでもどんな時も、あたしを蹴落とそうと狙っている事を……。


樹理がピョンとしなやかに地面を蹴って跳躍した。

マシュマロ色の髪がふわりと揺れる。

そして、樹理があたしの肩目掛けて、飛び蹴りを食らわせた。鈍い衝撃とともに、あたしの体は後ろのツル集団めがけて傾いていく。

左にマスクを持ち、右に傘を持ったあたしの手は、捕まるところも無く、傾いていく。


「おとり作戦だよぉーーーーーん」

樹理の猫なで声は、後ろの騒音にまぎれて消えた。

地面に軽やかに着地した樹理が、左の路地に向かって駆け出していくところなんて、見てもいなかった。倒れ込んでいくあたしは見ている余裕なんてなかったんだ。