小悪魔DOLL【Ⅰ】



渾身の力で叫んだあたしは、強く目をつぶっていた。

ゆっくりと目を開けば、KANATAが驚いた表情であたしを見下ろしていた。瞬きをすればホワイトミエルのまつ毛がゆらめいて、今日一番見開いたミエルグレージュの瞳が真っ直ぐとあたしを視界に入れる。

「驚いた」

そして、感情を緩めるように笑うんだ。

人差し指と親指で綺麗に上がった口角を隠して、その間から、ふふっと声が漏れた。

浴びたい、KANATAの漏れた笑い声を浴びたい。


「そうか、……繋がった」

思案するように視線を上げたKANATAは、独り言のようにそう呟くと、鞄から1枚のCDを取り出した。どこからともなく、マジックペンを取り出せば、キュポッと音をたてて蓋をはずす。

「お名前は?」

「あいく、です」

「……AIKU。OK、AIKUちゃん」

キュルキュルキュルとマジックペンを滑らせ、CDのパッケージに美しい曲線を走らせる。ペン先を覗き込むように、目で追った。

これがKANATAのサイン。

【AIKUちゃんへ。神のご加護がありますように。】

あたし宛のメッセージを書き終えると、穏やかに微笑んでKANATAはCDをあたしに差し出した。あたしはそっと手を伸ばして受け取って、KANATAの綺麗な筆跡をまじまじと見つめた。

「10周年記念のベストアルバム、AIKUちゃんにプレゼントするね」

「……うれしい」

ベストアルバムの感触を確かめながら、静かに呟いた。絶対、大切にする。

初めてKANATAから貰ったもの。

あたしの、宝物だ。

「女の子なんだから、体は大切にしてね」

ポンポンと、頭を撫でられた。

すごく嬉しくて、すごく恥ずかしくて、あたしはうつむいて耳まで真っ赤になった。

「アルバムを聴いたら、君の感想を聞かせてね」

「……はいっ!大切にしますっ」

「またね、AIKUちゃん」

ベストアルバムを両手で抱き締めて、あたしは背を向けて歩き出すKANATAを見つめた。

ホワイトミエルの髪が蛍光灯の光に反射して輝く。

大きな背中も、長い手足も、ただ歩いている後ろ姿のシルエットでさえ、美男子だ。無機質な通路も、KANATAが通れば、光を屈折させて、色をぼかして、彼だけが美しく輝いて見える。

KANATAだけにスポットライトが当てられているように、あたしはKANATAの背中が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。

やっぱり、KANATAがすき。

だいすき。