「お金を貰わなくても、誰にも見られていなくても、人のためになることをしたいと、この年になると思うようになる。君にはまだまだ先の話かもしれないけどね」
もう説教はうんざりだ。
早く他の掃除に向かってしまえ。
「そこの君ィィーーーー!!!」
ドタバタと足音が響くとともに、通路に大声がこだました。レコード会社の警備員が大急ぎでやってきたと思えば、清掃のオジサンを掴みあげた。
「入館許可証を見せてもらいましょうか!うちのレコード会社は、こんな制服の清掃員と契約はしていないぞ!どこの清掃会社だ!!」
「契約なんかしてるはずないだろう!ボランティアでやってるんだから!」
「ボランティアだと!?それが通用するとでも思っているのか!入館許可証を早く見せろ!!」
「そんなもん、あるわけないだろう!顔パスだ、顔パス!!」
「ふざけるな!!」
不審者のくせに人生を語り出していたなんて、自分の人生改めなさいよ。
「大丈夫でしたか?何も被害はございませんか?」
清掃のオジサンを捕まえながら、警備員があたしに目を向けた。
彼はその手から逃れようと必死だ。オジサンを助ける義理はない。しかし、この世界でトップを目指すために、あたしに必要となる助言をしたくれた仲だ。きっと、あたしが一言告げれば、オジサンは助かるかもしれない。
あたしは静かに口を開いた。
「はい、この人すごく変なんです。あたしとマネージャーの会話を盗み聞きしてて、覗きまで趣味らしくて……。マネージャーが居なくなった途端、急に話しかけてきて。私、すっごく怖かったです」
涙を浮かべるあたしに、警備員が目を見開いた。
そして、オジサンを掴む力を強くした。
「お前ーーーー!!警備室に来い!!!」
「おいっ!ちょっと待て!!……だから、君は想像力が足りないと言っているんだ!!よくもそんなことを……っ!警備員君!君もだ!君も想像力が足りないっ!君はアレか?新人警備員だろう!!おい、話を聞いてくれ!!」
「警備室で詳しく話を聞いてやる!!」
小さくなっていくオジサンと警備員をあたしは手を振って笑顔で見送った。ギャーギャー喚いていた声も聞こえなくなった。
目の前にあったカフェモカの水溜まりも、もう無い。
通路を掃除するために雑巾を探しに行った青木は、どこまで行ったんだ?
もう雑巾を持ってきても意味はないのに。
よし、帰ろう。
『待っていてください』
そう告げた青木の指示に従う義務などない。
本当に青木に振り回されて、やんなっちゃう。
