小悪魔DOLL【Ⅰ】



「早く綺麗にしないと……。ほーら。こんなに綺麗になった。早めに片付ければ、こんなに綺麗になるんだよ」

清掃のオッチャンがするすると器用にモップを動かせば、カフェモカの水溜まりが跡形もなく無くなった。

ドヤ顔をして、清掃のオッチャンは転がったカップを拾い上げた。


「彼と喧嘩をしていたようだけど、彼は君のマネージャー?隠れて見てたんだけど、せっかく買って来てくれたコーヒーを払いのけるなんて、ひどくないか?おかげで、私の仕事が一つ増えてしまったじゃないか」

「……関係ないでしょ。仕事なんだから、役に立ってよかったじゃない!」

「なんとまぁ!こりゃ、彼に同情するよ。まぁ、関係ないって言うけどね。何か悩みがあるなら、ぶちまけてみなさいよ。無関係だからこそ、言いやすいことだってあるんだから」

「オジサンは、……その仕事が楽しいの?給料いいの?」

「給料?ハッハ!給料なんて、もらってないよ。掃除はボランティアとしてやっているんだ」

「ボランティア?お金を貰わずに、掃除をするの?」

「きっと、君は今日レコーディングに来たんだろう。何度も清掃に来ていれば、芸能人には何人も会うさ。初めて見る顔だから、もうすぐデビューするんだろうね。もし、あの世界でトップを目指すなら、君に足りないモノを教えてあげよう」

問いの答えになっていない。

あたしは腕を組んで、オジサンを見上げた。


「君には、想像力が足りない」

「はぁ?何言ってんの?あたしの何がわかんのよ!」

「さっきの行動を見ていれば、わかるさ。彼はどんな気持ちでコーヒーを買いに言ったのか。あの表情を見て、汗ばんだ顔を見て、差し出した姿を見れば、彼が何を思って君にコーヒーを渡したのか。君に想像力があれば、あんな行動はしなかったはずだよ」

「じゃぁ!オッチャンは給料を貰わずに、埃だらけになって掃除をしてるって若い頃に想像ついてたってわけ?」

あたしの声は通路に大きく響き渡った。あたしの予想とは反対に、オジサンは声を上げて笑いだした。

「ハッハ!全く想像すらしていなかった!しかし、君よりは想像力はあるだろうね。もし君に想像力が豊富にあったとしても、それを人のために使わないのなら、無いものと同じだ。生まれ持った能力を人のために使うことが、社会に出るということなのだよ」

「意味わかんない」