小悪魔DOLL【Ⅰ】



『もっと恋する乙女のように笑って!』

『ちょっと違うんだよな~。もっとルンルンした感じ!』

カメラマンの言葉。

『止めて止めて。全然足りない』

『全然感情移入出来ないんだよ』

ヴォーカルディレクターの言葉。

何時間も監禁されたレコーディングルームから出ると、居なくなったはずの青木が待っていた。1番居てほしかったときにいなかったくせに、どの面下げて戻って来たんだ。青木と話する気分じゃないのに、青木はあたしの気持ちを無視して話しかけて来る。

いつもそうだ。

人の事を小馬鹿にして、大人ぶって、馴れ馴れしい。



「あいく、今日はお疲れさまでした。これ飲んで、糖分とってください」

青木が差し出したのは、コーヒーショップのアイスカフェモカだった。【GOD BRESS COFFEE】と印字してあるロゴマークは、里央と行ったコーヒーショップだ。居なかったとき、青木はコーヒーショップまで、カフェモカを買いに行ってたんだ。

なんで、……そんなことすんのよ。

「あいく、カフェモカ好きなんですよね?」

青木はそう言って笑った。

さっきまで呆れてたくせに、さっきまであんなに怒っていたくせに、青木は笑った。

あたしは唇を噛み締めて、じっととカフェモカを見つめた。



『君はアイドル失格ですよ』

『その減らず口閉じて、黙ってみてなさいよ!完璧なレコーディングにしてやるんだから!』

なんで何も無かったように話かけれるの?

なんで何も無かったようにそんな表情ができるの?



「ほら、どうぞ」

「……いらないっ!!」

カフェモカを手渡そうとする青木の手を、払い除けた。

パシャァァァァン。

床に叩き浸けられたカフェモカが、大きな茶色い水溜まりを作った。

青木のスーツも茶色のシミができて、指先からポタポタとカフェモカが滴り落ちた。空になったカップがコロコロと転がって、通路にはカフェモカの甘い香りが漂った。

「……何してるんですかっ!!!」

青木が目を見開いて、怒鳴り散らした。