『もっと恋する乙女のように笑って!』
『ちょっと違うんだよな~。もっとルンルンした感じ!』
カメラマンの言葉。
『止めて止めて。全然足りない』
『全然感情移入出来ないんだよ』
ヴォーカルディレクターの言葉。
何時間も監禁されたレコーディングルームから出ると、居なくなったはずの青木が待っていた。1番居てほしかったときにいなかったくせに、どの面下げて戻って来たんだ。青木と話する気分じゃないのに、青木はあたしの気持ちを無視して話しかけて来る。
いつもそうだ。
人の事を小馬鹿にして、大人ぶって、馴れ馴れしい。
「あいく、今日はお疲れさまでした。これ飲んで、糖分とってください」
青木が差し出したのは、コーヒーショップのアイスカフェモカだった。【GOD BRESS COFFEE】と印字してあるロゴマークは、里央と行ったコーヒーショップだ。居なかったとき、青木はコーヒーショップまで、カフェモカを買いに行ってたんだ。
なんで、……そんなことすんのよ。
「あいく、カフェモカ好きなんですよね?」
青木はそう言って笑った。
さっきまで呆れてたくせに、さっきまであんなに怒っていたくせに、青木は笑った。
あたしは唇を噛み締めて、じっととカフェモカを見つめた。
『君はアイドル失格ですよ』
『その減らず口閉じて、黙ってみてなさいよ!完璧なレコーディングにしてやるんだから!』
なんで何も無かったように話かけれるの?
なんで何も無かったようにそんな表情ができるの?
「ほら、どうぞ」
「……いらないっ!!」
カフェモカを手渡そうとする青木の手を、払い除けた。
パシャァァァァン。
床に叩き浸けられたカフェモカが、大きな茶色い水溜まりを作った。
青木のスーツも茶色のシミができて、指先からポタポタとカフェモカが滴り落ちた。空になったカップがコロコロと転がって、通路にはカフェモカの甘い香りが漂った。
「……何してるんですかっ!!!」
青木が目を見開いて、怒鳴り散らした。
