逃げようともがいても水かさを増した波に足を取られて、ひっくり返る。波の行きたい方向も、波の動きもわからずに、メロディーに飲み込まれて行くんだ。ザブンと大きな音をたてて、息の出来ないメロディーの中に沈んでいく。
あたしは、口を開いた。
マイクに向かって、歌声を響かせようと口を開いたんだ。
真っ暗な水の中。
出した声は、泡となってフワフワと水上に浮かぶ。
誰の耳にも届かない歌声が、波にかき消されて消えていく。
かすれた声がヘッドホンから跳ね返り、ワンフレーズ歌うことなく口を閉ざした。
あたしはボーカルブースに独り、呆然と突っ立っていた。
「どうしたの?ただその人を思い浮かべればいいだけだよ?」
その言葉が、心臓を突き刺した。
青木に目を向ける。
目頭を押さえた青木が、どっと疲れた表情でうつむいていた。
なんで、そんな顔するのよ。
あたしの視線に気づく事もなく、青木はレコーディングルームを出ていった。ゆっくりと閉まる扉から青木の後ろ姿が見えなくなる様子を、黙って見つめていた。
見捨てられた気分だ。
何も出来ないあたしに、青木は愛想を尽かしたんだ。青木の望むように天使系アイドルを全うできないあたしに、意気込んで自信満々に挑んだレコーディングがうまくできなかったあたしに、青木は呆れてしまったんだ。
