小悪魔DOLL【Ⅰ】



います。

そう告げたあたしに、青木がどんな表情を向けていたのか、わからなかった。

あたしはどんな表情をして伝えたのか、わからなかった。

「いいね、その表情」

だから、そう褒められても、何がいいのかわからなかった。


あたしは今、どんな顔をしているの?

あたしは今、どんな声で歌えばいいの?

ぐるぐると回る疑問の答えを誰も教えてくれない。

マイクがあたしの歌声を待っている。

ポップガードがその前に壁となって立ちはだかっている。


「その人のことを思い浮かべて、その人に見つめられたら?その人に触れられたら?それを歌に乗せればいいんだよ」

ヴォーカルディレクターが指を鳴らす。


メロディーが流れ始めた。

あたしは、目を閉じた。

もしも、KANATAに見つめられたら。

もしも、KANATAに触れられたら。

あたしは、どう反応するの?

そう考えている間にもメロディーは流れていく。あたしの手のひらの震えを感じているくせに、ヘッドフォンは溢れ出るメロディーを耳の奥まで響かせる。

あたしの気持ちも置いてきぼりにして、波のように押し寄せる。

どくんどくんと激しく心臓が脈打った。

体が震えて、息が上がる。

強く握った拳のせいで、手のひらに爪が食い込んでいく。

喉がひきつって、声もロクに出せる状態じゃない。

……待って、わからない。

メロディーが大きな波となって、あたしの体を包み込んだ。