います。
そう告げたあたしに、青木がどんな表情を向けていたのか、わからなかった。
あたしはどんな表情をして伝えたのか、わからなかった。
「いいね、その表情」
だから、そう褒められても、何がいいのかわからなかった。
あたしは今、どんな顔をしているの?
あたしは今、どんな声で歌えばいいの?
ぐるぐると回る疑問の答えを誰も教えてくれない。
マイクがあたしの歌声を待っている。
ポップガードがその前に壁となって立ちはだかっている。
「その人のことを思い浮かべて、その人に見つめられたら?その人に触れられたら?それを歌に乗せればいいんだよ」
ヴォーカルディレクターが指を鳴らす。
メロディーが流れ始めた。
あたしは、目を閉じた。
もしも、KANATAに見つめられたら。
もしも、KANATAに触れられたら。
あたしは、どう反応するの?
そう考えている間にもメロディーは流れていく。あたしの手のひらの震えを感じているくせに、ヘッドフォンは溢れ出るメロディーを耳の奥まで響かせる。
あたしの気持ちも置いてきぼりにして、波のように押し寄せる。
どくんどくんと激しく心臓が脈打った。
体が震えて、息が上がる。
強く握った拳のせいで、手のひらに爪が食い込んでいく。
喉がひきつって、声もロクに出せる状態じゃない。
……待って、わからない。
メロディーが大きな波となって、あたしの体を包み込んだ。
