小悪魔DOLL【Ⅰ】



思わず、耳を疑った。

1秒でも早く車に向かおうとしていた足が動かなくなる。

青木に目を向けて、

青木が口を開くまで、

あたしの時間は止まっていたんだ。


「今から急いでも無駄です。シオンさんには事情を説明して、納得してもらいました」

KANATAのコンサートを、……断った?

「なに、勝手なこと言ってんの……?」

あたしの声は震えて、空気に彷徨い消えて行く。

やっと、やっと、KANATAに会えると思ったのに。

「シオンさんには他の人と行ってくださいと伝えました。もし2人分キャンセルしたとしても当日券に回って、他の方が現地で購入できます。KANATAくんのコンサートの席が空くことはないので安心してください」

10年も待って、ようやく手にいれたチャンスなのに。

なんで、あんたにそれを奪う権利があるって言うのよ?


「今から、ウエストウッドのレコーディングスタジオに行きます。新曲、しっかり覚えてますよね?レコーディングしますから、車用意してきます」

冷酷にそう告げる青木に、ふるふると体が震え始めた。

勝手にそう言って、勝手に背を向ける。あたしの気持ちもあたしの思いも無視をして、青木は淡々と指示を出すんだ。


KANATAに対する想いを、踏みにじられた。

あたしはKANATAに会う事を10年待ってたのに。

その想いも、青木は平気で踏みつぶすんだ。

この震えを、この怒りを、抑えようとしても到底無理だった。