小悪魔DOLL【Ⅰ】



「AIKUちゃ~ん!こっち見て!もっと笑って!」

数日前の出会いを思い出していたあたしの耳に、カメラマンの指示が届く。こんな気持ち悪い緑色の背景の前で、誰が笑えるってんだ。


そう突っ掛かりたいところだけれど、今日は我慢だ。

にっこり笑って、スカートの裾を揺らした。

フラッシュに目がくらんで、あの日のシオンの姿がちらついた。



『この前あいくちゃんに助けてもらったから、恩返ししたくて!』

『は?恩返し?』

『あたしが囲まれているところに、キャリーバッグに乗ったあいくちゃんが助けに来てくれたの!まるでアクションスターみたいに飛んで跳ねてコロコロ転がって、斗愛くんのバイクに乗って去って行っちゃったから、お礼も言えなくて……』

『キャリーバッグ?』

そういえば、スクランブル交差点で騒動が起こった日、坂の多い都会の道で、あたしは逃げる手段として、キャリーバックに飛び乗って滑るように坂を下った。

逃げるにはいい手段だと思っていたけど、難点があるとすれば、ブレーキもハンドルもないことだ。

下った先にいた女子高生の集団を避ける術はなかった。


『早く歩けよブス!』
『やぁ!やめてぇ!』
『お前ドルオタだから、あのクラス選択したんだろ?』
『ただのブタのくせに、アイドルクラスとか舐めんな!』

『退けええええええ!!』

あたしは女子高生の集団に突っ込んだ。

その後、知っての通り、あたしは道のど真ん中まで転がって、悪魔野郎に轢かれかけたんだ。

話によると、シオンは彼女たちにひどい仕打ちをされていたらしい。そんなことよりも、あたしの前に出されたキャリーバッグは、無くしていたキャリーバッグと柄が全く違うことが、とても気になる。