「AIKUちゃ~ん!こっち見て!もっと笑って!」
数日前の出会いを思い出していたあたしの耳に、カメラマンの指示が届く。こんな気持ち悪い緑色の背景の前で、誰が笑えるってんだ。
そう突っ掛かりたいところだけれど、今日は我慢だ。
にっこり笑って、スカートの裾を揺らした。
フラッシュに目がくらんで、あの日のシオンの姿がちらついた。
『この前あいくちゃんに助けてもらったから、恩返ししたくて!』
『は?恩返し?』
『あたしが囲まれているところに、キャリーバッグに乗ったあいくちゃんが助けに来てくれたの!まるでアクションスターみたいに飛んで跳ねてコロコロ転がって、斗愛くんのバイクに乗って去って行っちゃったから、お礼も言えなくて……』
『キャリーバッグ?』
そういえば、スクランブル交差点で騒動が起こった日、坂の多い都会の道で、あたしは逃げる手段として、キャリーバックに飛び乗って滑るように坂を下った。
逃げるにはいい手段だと思っていたけど、難点があるとすれば、ブレーキもハンドルもないことだ。
下った先にいた女子高生の集団を避ける術はなかった。
『早く歩けよブス!』
『やぁ!やめてぇ!』
『お前ドルオタだから、あのクラス選択したんだろ?』
『ただのブタのくせに、アイドルクラスとか舐めんな!』
『退けええええええ!!』
あたしは女子高生の集団に突っ込んだ。
その後、知っての通り、あたしは道のど真ん中まで転がって、悪魔野郎に轢かれかけたんだ。
話によると、シオンは彼女たちにひどい仕打ちをされていたらしい。そんなことよりも、あたしの前に出されたキャリーバッグは、無くしていたキャリーバッグと柄が全く違うことが、とても気になる。
