桜の花びらを身にまとって、走る。
季節の花が咲く中庭を駆けて、ウエストウッドのゲームマシーンの間を突っ切って、噴水の前を過ぎる。今では小さくなった青木が中庭から追いかけてくるのが見えた。
見張りをする門番に門を開かせると、外の空気が勢いよく入り込む。陽気な春を振り払うかのように、風が吹き荒れ、あたしの体を取り巻いた。
「こらぁーーーーーー!!!!」
青木の声が響く。
逃げなくちゃいけないのに、あたしは足を止めた。
何故なら、あたしと同じ制服を着た1人の女子高生が、満面の笑みで立っていたから。
春風は何かを報せるように、あたしと彼女の間に吹き荒れる。
長い髪が艶やかに靡く、ぱっちりした瞳、ぷっくりとした唇、ほっぺのお肉を興奮に紅潮させている。マシュマロのように白くて、ぷくぷくと柔らかく肉付きの良い両手を合わせる。視線の位置が全く同じだから、きっと背丈が同じなのだろう。
でも、大きく見えるのは、彼女があたしと正反対の体格だからだ。
彼女は目を輝かせ、
「あいくたゃんですをねっ?」
と言った。
いや、噛み過ぎ。
「あたしっ、シオンって言いましゅっ!!」
だから、噛み過ぎ。
シオンは体を仰け反らす程息を吸い込んだかと思えば、
「あたしとお友達になってくださぴ……っ!!!!!!」
ほっぺのお肉を噛みながら渾身の力を込めて叫んだ。
彼女との出会いが、この先あたしの未来を大きく変えることになるとは、このときのあたしは知る由もなかった。あんなに辛く苦しい日を迎えるなんて、思ってもみなかった。
だから、あたしは顔色も変えずに、即答したの。
「無理」
