小悪魔DOLL【Ⅰ】








「スマホの中に、あいくのデビュー曲のサンプルを入れてあります」

「……デビュー曲のサンプル?」

「イヤホン、耳にして」

イヤホンを耳に入れたあたしを確認して、青木は器用にあたしの手の中にあるスマホを操作する。再生ボタンが押された。




青木の口が動いた。

それでも、何を言ったのか聞こえなかった。

イヤホンから流れ出した音楽が耳の奥まで響き渡って、青木が何を言ったのか、あたしにはわからなかったんだ。

信号が青になる。

周りの人々が動き出す。青木がその流れにのって、背を向けて歩き出す。

それでも、あたしは立ち止まったまま、スマホを両手で握りしめていた。胸の奥がぎゅっと締め付けられて、動くことが出来なかった。


全てがストーリーの一部のように思えた。

キラキラと輝くネオンも、足早にすれ違う人々も、チカチカと点滅する青信号も。





あたしは顔を上げた。

スクランブル交差点の看板にいるKANATAと見つめあったんだ。あたしが大切にしている写真よりも大人びたKANATAが、人混みに紛れたあたしを見下ろしている。

これは全て、あたしとKANATAのストーリー。

そして、この曲がこのストーリーのバックグラウンドミュージック。






あたしはこの曲で、……デビューする。