「スマホの中に、あいくのデビュー曲のサンプルを入れてあります」
「……デビュー曲のサンプル?」
「イヤホン、耳にして」
イヤホンを耳に入れたあたしを確認して、青木は器用にあたしの手の中にあるスマホを操作する。再生ボタンが押された。
青木の口が動いた。
それでも、何を言ったのか聞こえなかった。
イヤホンから流れ出した音楽が耳の奥まで響き渡って、青木が何を言ったのか、あたしにはわからなかったんだ。
信号が青になる。
周りの人々が動き出す。青木がその流れにのって、背を向けて歩き出す。
それでも、あたしは立ち止まったまま、スマホを両手で握りしめていた。胸の奥がぎゅっと締め付けられて、動くことが出来なかった。
全てがストーリーの一部のように思えた。
キラキラと輝くネオンも、足早にすれ違う人々も、チカチカと点滅する青信号も。
あたしは顔を上げた。
スクランブル交差点の看板にいるKANATAと見つめあったんだ。あたしが大切にしている写真よりも大人びたKANATAが、人混みに紛れたあたしを見下ろしている。
これは全て、あたしとKANATAのストーリー。
そして、この曲がこのストーリーのバックグラウンドミュージック。
あたしはこの曲で、……デビューする。
