通りすぎるトラックを目で追って、スクリーンを見上げる人々に目を向けた。
あたしが想像するより遥かに大きい影響を、天使系アイドルAIKUは与えている。あたしはちっぽけな場所から、壮大な魔法の世界へ飛び込んだみたい。
「あいくのことだから」
あたしと同じ視線の先を見つめながら、優空が口を開いた。
「気づいてないと思ってさ。ウエストウッドの天使系アイドルとしてデビューして、どれほど皆がAIKUに注目しているか」
隣にいる優空を見上げれば、綺麗な横顔がスクリーンを見上げていた。
『不機嫌なあいくが笑顔になる魔法を、この街にかけておいたから』
王子の言葉を思い出して、あたしは呆れたように笑った。
「魔法だなんて、優空が作ったわけじゃないくせに」
スクリーンもトラックも、全部事務所の戦略だ。それなのに、自分の手柄のように自慢げに見せつける優空がおかしかった。
「ちょっぴり、演技くさかったかな?」
優空がくすりと笑った。
「でも、俺が見せたかったの。AIKU一色になるこの街を初めて見るとき、俺があいくの隣に居たかったの」
優空の瞳は真っ直ぐだった。そこに偽りは無かった。今のあたしは、そう思えた。デビューしたのに、学校に行かなければいけない。胸のなかでモヤモヤとした感情が、心を支配していた。
その霧を晴らすように、王子様は笑った。
「……ありがと」
「うん」
何故か、優空も嬉しそうに返事した。
優空は変わってる。優しい言葉やキザな台詞はサラリと言えるくせに、文句や悪口はいつも自分の胸にしまいこむ。
あたしとは、真逆だ。
だから、優空と居ると、あたしの調子が狂うんだ。
「あいく、見て」
お店の入り口を指差して、優空が言った。
「【ラブべあ必見!No.1カラー、チェリーグロス】だって」
店頭に並べられた何色ものグロスの一番目立つところに、チェリー色のグロスが並べられていた。手書きPOPに書かれた文を読んで、優空がお店に向かって行く。
あたしも優空に続いて行けば、体に刻まれたメロディが何度も何度もリピートされる。
