レジの上に飲みかけのエスプレッソを、音をたてて置いた。HARUKAがいなくなり、またスマホをいじりだした店員が、驚いて顔をあげた。
「飲まないの?」
一口しか飲んでいないエスプレッソに瞳を向け、彼は問いかける。
「こんなん、飲み物じゃない。まずすぎ!」
「だったら、頼まなきゃよかったのに」
「あたしが頼んだんじゃない!」
あのおっさんが勝手に注文したんだ。
「プレミアムカフェモカと変えてよ」
エスプレッソを突き返す。
まだ舌の上が苦くて、早く洗い流したかった。
「変える?無茶言わないでよ。こっちだって、商売でやってるんだから。そっちの都合で返品なんて出来ないよ。それに、一口飲んだじゃん」
「こんな苦いなんて知ってたら、飲まなかったわよ!だったら、プレミアムカフェモカ買うから!」
「プレミアムカフェモカ買うって、お金持ってるの?これが全財産?これじゃぁ、プレミアムカフェモカは買えないよ、全然足りないもん」
レジ上に取り残された小銭を見下ろし、店員が肩をすくめた。
「じゃぁ、ただのカフェモカでいい」
「カフェモカでも、足りないよ。この金額なら、あともう一杯エスプレッソのショート買えるけど」
「いらないわよ!!」
キッと睨み付ければ、店員がクスクス笑った。
全然、面白くないのに、何笑ってんのよ!
「まぁ、無料でエスプレッソをカフェモカに近づけることは、出来るんじゃない?完璧なカフェモカにはならないと思うけど」
最初から、そう言いなさいよ!
「ショコラソース、キャラメルソース、ベリーソース、ハニー、ナッツ、アラザン、ココアパウダー」
トントン。
レジ上に乗せながら、並べていく。
そして、大きな瞳があたしを見つめた。
「このトッピングは無料だから、これ入れてカフェモカに近づければ?ミルク入れてショコラソース入れれば近づくと思うけど、ミルクは有料だからね。俺は今からSNSでレポ見るから、勝手にどうぞ」
店員が仕事を放棄した。
