小悪魔DOLL【Ⅰ】



レジの上に飲みかけのエスプレッソを、音をたてて置いた。HARUKAがいなくなり、またスマホをいじりだした店員が、驚いて顔をあげた。

「飲まないの?」

一口しか飲んでいないエスプレッソに瞳を向け、彼は問いかける。

「こんなん、飲み物じゃない。まずすぎ!」

「だったら、頼まなきゃよかったのに」

「あたしが頼んだんじゃない!」

あのおっさんが勝手に注文したんだ。

「プレミアムカフェモカと変えてよ」

エスプレッソを突き返す。

まだ舌の上が苦くて、早く洗い流したかった。


「変える?無茶言わないでよ。こっちだって、商売でやってるんだから。そっちの都合で返品なんて出来ないよ。それに、一口飲んだじゃん」

「こんな苦いなんて知ってたら、飲まなかったわよ!だったら、プレミアムカフェモカ買うから!」

「プレミアムカフェモカ買うって、お金持ってるの?これが全財産?これじゃぁ、プレミアムカフェモカは買えないよ、全然足りないもん」

レジ上に取り残された小銭を見下ろし、店員が肩をすくめた。

「じゃぁ、ただのカフェモカでいい」

「カフェモカでも、足りないよ。この金額なら、あともう一杯エスプレッソのショート買えるけど」

「いらないわよ!!」

キッと睨み付ければ、店員がクスクス笑った。

全然、面白くないのに、何笑ってんのよ!


「まぁ、無料でエスプレッソをカフェモカに近づけることは、出来るんじゃない?完璧なカフェモカにはならないと思うけど」

最初から、そう言いなさいよ!

「ショコラソース、キャラメルソース、ベリーソース、ハニー、ナッツ、アラザン、ココアパウダー」

トントン。

レジ上に乗せながら、並べていく。

そして、大きな瞳があたしを見つめた。

「このトッピングは無料だから、これ入れてカフェモカに近づければ?ミルク入れてショコラソース入れれば近づくと思うけど、ミルクは有料だからね。俺は今からSNSでレポ見るから、勝手にどうぞ」

店員が仕事を放棄した。