小悪魔DOLL【Ⅰ】



そして、薄い唇が静かに言葉を放つ。

「この世界って、こんな味だよ」

HARUKAのかすれた声が響き渡った。


エスプレッソコーヒーの黒い水面が、波打った。

思わぬ言葉に、思わぬ声のトーンに、あたしはHARUKAをしばらく見つめていた。そして、ゆっくりとエスプレッソコーヒーに視線をうつす。

どこまでも黒く、カップの底に広がる闇。

どこを探しても苦味しかなく、甘味は一切なかった。

この魔法の世界に飛び込んだあたしに、HARUKAはそう告げた。そして、あたしの耳元に顔を近づけた。HARUKAの吐息に、ミルクティー色の髪がふわりと舞った。


「期待してるよ、小悪魔ちゃん」

耳に入り込んだ言葉が、スルリと心臓に巻き付いた。

目を見開いて固まったまま、あたしはエスプレッソコーヒーを見つめ続けていた。HARUKAがあたしから離れ、ゆっくりと背を向けて歩き出しても、あたしは動くことが出来なかった。

HARUKAが去っていく足音が、胸の奥にまで響き渡った。


真っ黒で、苦くて、思わず顔を歪める。

『この世界って、こんな味だよ』

HARUKAは、あたしに何を伝えたかったのか。


『期待してるよ』

HARUKAは、あたしに何を期待しているのか。


『小悪魔ちゃん』

天使系アイドルとしてデビューしたあたしに、HARUKAはそう言った。