そして、薄い唇が静かに言葉を放つ。
「この世界って、こんな味だよ」
HARUKAのかすれた声が響き渡った。
エスプレッソコーヒーの黒い水面が、波打った。
思わぬ言葉に、思わぬ声のトーンに、あたしはHARUKAをしばらく見つめていた。そして、ゆっくりとエスプレッソコーヒーに視線をうつす。
どこまでも黒く、カップの底に広がる闇。
どこを探しても苦味しかなく、甘味は一切なかった。
この魔法の世界に飛び込んだあたしに、HARUKAはそう告げた。そして、あたしの耳元に顔を近づけた。HARUKAの吐息に、ミルクティー色の髪がふわりと舞った。
「期待してるよ、小悪魔ちゃん」
耳に入り込んだ言葉が、スルリと心臓に巻き付いた。
目を見開いて固まったまま、あたしはエスプレッソコーヒーを見つめ続けていた。HARUKAがあたしから離れ、ゆっくりと背を向けて歩き出しても、あたしは動くことが出来なかった。
HARUKAが去っていく足音が、胸の奥にまで響き渡った。
真っ黒で、苦くて、思わず顔を歪める。
『この世界って、こんな味だよ』
HARUKAは、あたしに何を伝えたかったのか。
『期待してるよ』
HARUKAは、あたしに何を期待しているのか。
『小悪魔ちゃん』
天使系アイドルとしてデビューしたあたしに、HARUKAはそう言った。
