小悪魔DOLL【Ⅰ】



《♪ love you… love you… love you…》

《my sweet daring 》


しっとりと歌い出したとき、観客が振り返ったことを、あたしは知らない。

それぞれの担当団扇を持ったファンたちが目を見開き、食い入るようにあたしを見つめていたことなど、知るよしもなかった。

AIKUを魅せるため、閉じた瞳を開いた。

しっとりとした曲調から、跳ねるように曲調が変わる。ステップを踏むようにリズムをとれば、観客席が同じようにリズムを刻む。先程まで興味さえ持っていなかった観客たちが、好奇の瞳を向け始めた。


あたしは思い出していた。

この街に、初めて訪れた時のこと。

大きなスクランブル交差点。そこで見つけたKANATAの看板。初めて見たKANATAより大人びて、もっともっとかっこよくなっていた。ミエルグレージュの瞳はスクランブル交差点を行き交う人々を見下ろしていた。

あたしは彼に会うために、この街にやってきたんだ。


《 ♪ あなたへの想いで はちきれそうだよ》

《この想い バルーンにつめこんで》

《空へ 飛んでいけそう!》


胸に手をそえて、弾けるように歌う。

キラキラと輝く瞳を会場に向けて、あたしは満面の笑みだった。




《♪ ふわふわの くものうえ》

《ねっころがった エンジェルベイビー》

《いたずらな矢を はなたないで》

空に向かって、歌声を響かせた。

雲の上にいるエンジェルベイビーに聞こえるように。胸を押さえて首を横に振れば、ミルクティー色の髪がきらめいた。





《 ♪ わたしは もう あなたに夢中。》


胸に添えた手を会場に向けて、伸ばす。

あたしの歌声を、KANATAに届けるんだ。