小悪魔DOLL【Ⅰ】



《いつもいつも覗きこんでいた》


白い雲の大地に、涌き出た泉。

揺れる水面に映る、空から見下ろした街並み。


《憧れていた世界に》


水面が激しく波打った。

自分達が泉の中に飛び込んだように、ファンたちは無意識に拳を握った。


《あたしは、飛び込んだ》


映像が物凄い速度で落下する。

小さかった屋根たちが、勢いよく近づいた。

しかし、地上が近づいて、スローモーションに変わる。映像の両端には大きな羽根が羽ばたく姿が時折うつり、地上には天使の影が映っていた。

まるで天使の視野のように映っていた映像は切り替わる。

地面に足をついた天使の羽はみるみる抜けて、空へ舞い上がった。ミルクティー色の髪がさらりと揺れて、彼女は地面に手をついた。


《空から天使が舞い降りた》


ゆっくりと立ち上がった天使が、まっすぐとこちらに目を向ける。


《天使系アイドル、AIKU》


会場の観客がざわついた。

しかし、ざわついている暇もなかった。会場全体に突風が巻き起こり、風に乗った甘酸っぱい香りを観客を包み込んだ。


前奏が流れ始める。

足元がピンクのライトに照らされた。

センターステージの中央に立ち、スポットライトを浴びて、胸に手を当てる。鳴り響く心臓の鼓動が、胸に添えた手を震わせる。メロディーが流れるのを感じて、静かに自分の呼吸を感じて、自分の世界を作る。

あたしにしか作れない魔法の世界を、魅せるんだ。


観客席の無数の瞳。

その瞳があたしを見るとき、輝きを失っていたとしても。

あたしはそっと口を開いた。

唇に近づけたマイクから、あたしの歌声が響き渡った。