《いつもいつも覗きこんでいた》
白い雲の大地に、涌き出た泉。
揺れる水面に映る、空から見下ろした街並み。
《憧れていた世界に》
水面が激しく波打った。
自分達が泉の中に飛び込んだように、ファンたちは無意識に拳を握った。
《あたしは、飛び込んだ》
映像が物凄い速度で落下する。
小さかった屋根たちが、勢いよく近づいた。
しかし、地上が近づいて、スローモーションに変わる。映像の両端には大きな羽根が羽ばたく姿が時折うつり、地上には天使の影が映っていた。
まるで天使の視野のように映っていた映像は切り替わる。
地面に足をついた天使の羽はみるみる抜けて、空へ舞い上がった。ミルクティー色の髪がさらりと揺れて、彼女は地面に手をついた。
《空から天使が舞い降りた》
ゆっくりと立ち上がった天使が、まっすぐとこちらに目を向ける。
《天使系アイドル、AIKU》
会場の観客がざわついた。
しかし、ざわついている暇もなかった。会場全体に突風が巻き起こり、風に乗った甘酸っぱい香りを観客を包み込んだ。
前奏が流れ始める。
足元がピンクのライトに照らされた。
センターステージの中央に立ち、スポットライトを浴びて、胸に手を当てる。鳴り響く心臓の鼓動が、胸に添えた手を震わせる。メロディーが流れるのを感じて、静かに自分の呼吸を感じて、自分の世界を作る。
あたしにしか作れない魔法の世界を、魅せるんだ。
観客席の無数の瞳。
その瞳があたしを見るとき、輝きを失っていたとしても。
あたしはそっと口を開いた。
唇に近づけたマイクから、あたしの歌声が響き渡った。
