シオンの存在が、心底どうでもよくなることが起こった。
ピッタリ揃った彼らのダンスから異質のように、TOAだけがゆっくりと歩き出す。ステージの上にいるのに、あの中でTOAだけが別世界にいるみたいだ。メロディーに飲み込まれて聞こえないはずの足音が、心の中で響き渡った。
それは、まるで悪魔があたしの心に忍び込むカウントダウンのように。
《0時のベルとともに》
《魔法はとかれて》
《君は振り返ることもない》
マイクを両手で包み込むように持ち、目を閉じる。
眉間に刻まれたシワも、閉じられたまぶたも、大きく開かれた口も、あたしの胸を震わせた。精一杯の歌声を響かせようと、TOAの体がくの字に曲がった。
『轢くぞ?』
『何様だてめえ』
『期待はずれ?期待通りのブスだったよ』
だいっきらいだった。
強気で、強引で、自分が一番だと、勘違いを起こしている斗愛が、だいっきらいだった。
だいっきらいだった、……のに。
「……すごい」
あたしは無意識に声を出していた。
そして、ココアブラウンの瞳が、あたしを捕らえた。
闇に染まった瞳の向こうに色が見えた。レッド色の光が小さな炎のように揺らめいて、瞳全体を染めていく。
《♪ねぇ、……お願い》
体の芯まで響く切ない歌声に、鳥肌がたった。
その瞬間、TOAがあたしに向けて手を伸ばして、まるで語りかけるように歌う。あたしが手を伸ばせば、その指先に触れることが出来るんじゃないか。
何十メートルも向こう側にいるはずのTOAに、そんな錯覚さえ起こしていた。
TOAがステージに膝をついた。
それが合図のように、ターンをしてRIOとSORAがTOAの元へ寄る。そして、YUIJURIが両端に膝をついた。ドリームたちはピタリと体の動きを止めた。それでも、あたしの瞳の真ん中には、TOAだけが映っていた。
