小悪魔DOLL【Ⅰ】



シオンの存在が、心底どうでもよくなることが起こった。

ピッタリ揃った彼らのダンスから異質のように、TOAだけがゆっくりと歩き出す。ステージの上にいるのに、あの中でTOAだけが別世界にいるみたいだ。メロディーに飲み込まれて聞こえないはずの足音が、心の中で響き渡った。

それは、まるで悪魔があたしの心に忍び込むカウントダウンのように。


《0時のベルとともに》

《魔法はとかれて》

《君は振り返ることもない》


マイクを両手で包み込むように持ち、目を閉じる。

眉間に刻まれたシワも、閉じられたまぶたも、大きく開かれた口も、あたしの胸を震わせた。精一杯の歌声を響かせようと、TOAの体がくの字に曲がった。


『轢くぞ?』

『何様だてめえ』

『期待はずれ?期待通りのブスだったよ』


だいっきらいだった。

強気で、強引で、自分が一番だと、勘違いを起こしている斗愛が、だいっきらいだった。

だいっきらいだった、……のに。


「……すごい」

あたしは無意識に声を出していた。

そして、ココアブラウンの瞳が、あたしを捕らえた。

闇に染まった瞳の向こうに色が見えた。レッド色の光が小さな炎のように揺らめいて、瞳全体を染めていく。


《♪ねぇ、……お願い》


体の芯まで響く切ない歌声に、鳥肌がたった。

その瞬間、TOAがあたしに向けて手を伸ばして、まるで語りかけるように歌う。あたしが手を伸ばせば、その指先に触れることが出来るんじゃないか。

何十メートルも向こう側にいるはずのTOAに、そんな錯覚さえ起こしていた。

TOAがステージに膝をついた。

それが合図のように、ターンをしてRIOとSORAがTOAの元へ寄る。そして、YUIJURIが両端に膝をついた。ドリームたちはピタリと体の動きを止めた。それでも、あたしの瞳の真ん中には、TOAだけが映っていた。