黄色い歓声が聞こえる。
そして、手を振り、団扇を振り、大勢の観客が沸き立っているんだろう。その熱気に、その表情に、あたしは応えることができるのだろうか。問いかけに目を閉じると、真っ暗闇が全身を覆った。
『お前可愛くない。アイドル辞めろよ』
耳の奥に響き渡るのは、いつかの悪魔の声だ。
あのココアブラウンの瞳が、あの嘲笑い声が、あたしの自信を奪い去っていく。
だめだ、震えが止まらない。
『AIKUちゃん!ノッてきて、すごくいいんだけどさ!今日のテーマは『天使の恋』なんだよね?』
『止めて止めて。感情が全然足りないなぁ』
納得していない大人の表情が瞳の奥に浮かび上がる。
どうして今、うまくいかなかった記憶を思い出すの。
手のひらを見つめた。
自分の意志とは反して、手が小刻みに震えるの。
どんなに抑えようと思っても、悪魔があたしの手を握って揺さぶるように、言うことを聞かない。
もし、また期待外れになったら?
あの歓声の中に飛び込んで、思い通りにできなかったら?
初めてのレコーディングスタジオで感じた恐怖心が顔を覗かせて、あたしを臆病にさせる。
その時だった。
ポン、背中に手のひらが乗った。
冷えた体に、その手のひらはじんわりと温かかった。顔を上げれば青木が微笑みながら、あたしを見つめていた。
まるで、解凍されたみたいだ。
強張った体から、スッと力が抜ける。
「あいく。君は今、完璧な天使系アイドルです。自信を持って、AIKUを魅せてきてください」
「……バカじゃないの。あんたに言われなくたって、そんくらいわかってんだから」
青木の言葉が、声が、表情が、斗愛の影を消していく。
あの日、青木がサンプル曲をあたしに届けた、あの日から。
朝寝ぼけながらサンプル曲をリピートし続けたこと、通学途中に録音を聞き直したこと、授業中に歌詞のノートに書き込んだこと、休み時間にダンスの動画を繰り返し見続けたこと、放課後に事務所のレッスンルームでダンスの練習を夜まで続けたこと。
喉の熱さも、全身の筋肉の疲労も思い出す。一瞬一瞬の記憶が、この気持ちを塗り替えていくんだ。
そして、扉から出て来るあたしを待っていたように、王子が振り返った。
「お供します、プリンセス」
数段先で優空が王子のように微笑んで、あたしに手を差し伸べた。だから、あたしは彼の手に、自分の手を重ねた。王子様にエスコートされながら、アイドルへ続く階段を駆け上がった。
