「私をここで待ってたの?」
「はい」
「話をするために?」
首を傾げると、野間は「んーっと」と言葉を選びながら、帽子を被り直した。
「いえ、それだけじゃないっていうか」
「リビドーってところに連れて行くのは、なんで?」
「紫藤さんが待ってます」
「………」
足を止めたまま、何も言えないでいた。
野間は多少の間、沈黙を許した上で再び口を開く。
「リビドーは、シトウの中でも限られた人間しか出入りできません」
「………」
「そんな場所に、カナコさんは足を踏み入れた」
なんとなく、察した。
リビドーは、前に私がシドに連れられた場所。
――『手っ取り早ぇ方法、教えてやろうか』
きっと、シドと一夜を過ごしたあの部屋のことだ。
「自分が今、どんなお立場か。自覚あります?」
「……立場?」
私の立場なんて。
そんな大層なものがシドや、シトウの中にあるとは思えない。
前のことは前のこと。……きっとちょっとした事故。
いろんなタイミングが重なって、間違っただけ。
シドにとっても私にとっても。
そうじゃないの?

