「わからないんだよね」
「……何がですか」
「なんで腹が立つのか」
「………」
「ここまで俺をイラつかせるの、お前くらいだよ」
「すみません……」
何が、ユキをそんなに怒らせてしまうんだろう。
怒らせてやろうだなんて、一ミリだって思ってないのに。
「………」
「………」
気まずい沈黙。
ふと、シャワーの水流を遮るユキの左手に目を落とした。
……冷水に晒され続けるその手が、赤くなっている。
私はジーンズの裾を太ももまでたくし上げ、シャワーを持つユキの右手を膝の方へ誘導した。
膝下で水流を受け止めて足首まで水を流せば、もう手で遮る必要はない。
ユキの左手をシャワーから剥がし、そっと両手で包み込む。
「……冷たい」
温めてあげたくて。
私の手の中で、ユキの左手がピクリ、と跳ねた。
かと思えば、シャワーヘッドが、ゴト……と床に転がった。
「………」
どうしたんだろう?
そう思った瞬間、噴水のように水が四方八方へ激しく散りだした。
顔に跳ねる水を避けながら、薄目でユキを見れば。
────え?
呆気に取られたような、見たことのない表情。
色白の頬に、うっすらと赤みが差している。
一瞬、そんな……気がした。
ユキはすぐにシャワーヘッドを拾い上げ、私に預けた。
そして俯いたまま、何も言わずに浴室を出て行ってしまった。
さっきの顔は、見間違い?
うん。
たぶん、そう。
でも、なんでだろう。
私だって、顔が熱くなってきた……。


