カエデと出会ってから、数日が過ぎた。
あれ以来、特に変わったことはない。
それなのに、時々。
あの人の笑顔が、不意に頭をよぎる――
「……ナコ」
遠くの方で誰かが私を呼ぶ声がする。
夢かな。
だって私まだ寝てるし。
「――カナコ!!」
「……ぐえ!!」
お腹への突然の衝撃で、強制終了される睡眠。
「え?」
私は何度かパチパチと瞬きをした。
「おはよ!」
首を傾げて微笑む、リンコ。
寝起き眼をごしごしと擦る。
間違いない、リンコだ。
「何、してるんですか」
リンコはAnBarの二階で眠る私の、この腹の上にどっかりと腰を落としていた。
なんで私の部屋にいるの。
なんで私の上にいるの。
ぼうっと半目のまま睨みつける。
けれど、リンコはそんなことお構いなしに、ぐん、とその笑顔を近づけた。
「ショッピング行くわよ!」
そう宣言したリンコは、寝ぼける私もそっちのけ。
私の髪を部屋にあった櫛で乱暴に梳かし、スマホだけを握らせると。
二階から一階へ。
一階から外へ。
押し出すようにして私を連れ出した。
表に待たせてあったタクシーへ滑り込むように乗り込み、目的地を伝える。
タクシーは容赦なく走り出した。


