ユキのマンションに戻り、黙々と仕事をしているユキを尻目に、キッチンに入った。
食材をキッチン台に並べて、順番に細かく切っていく。
食材の準備が出来れば、新品のフライパンに火をかけた。
フライパンにバターを入れると、じわじわ溶けるバターの濃厚な香りがキッチンに広がる。
――『カナ、まだ?腹減った』
――『もうすぐできるよ』
気がつけば、バターの隅が黒く焦げ始めていた。
……しまった。早く食材を入れなきゃ。
焦って手を動かした瞬間、フライパンの取っ手に腕が勢いよく当たった。
コンロの上で大きく動いた、熱々のフライパン。
くるっと回って、コンロの台座から外れると、そのまま足元へと滑り落ちてきた。
――ガシャン、という物音と共に、「きゃっ、」と、思わず悲鳴を上げた。
「どうした?」
奥から弾かれたようにユキがやってきて、こちらを覗き込んだ。
「ユキさん、ごめんなさい……床が」
慌てて持ち上げたフライパン。
十分に熱された鉄が直撃した床には、黒々とした焦げ跡がついてしまっていた。
「おい」
「――…っ」
「そんなことを言ってる場合か!」
フライパンを持った手とは逆の手で抑える、左足首。
フライパンが当たり、さらには溶けた熱いバターがそのまま肌にかかってしまっていた。
ユキは私の状態に気が付くと、言葉よりも早く私を横抱きにして、浴室に駆け込んだ。

