「お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
私の働くclub AnBar.は、本日の営業を終えた。
退勤したサンコンを見送り、照明を落としていく。
無音の中、フロアをブルーに照らしていたライトを切ると、なんだか無性に寂しい気持ちになる。
お風呂に入ってさっさと眠ってしまおう。
入浴の用意をバッグに詰め込み、AnBarを出る。
入口を施錠をして表を向くと、見知った人物が視界に入ってきた。
「お疲れ様っす」
細い路地の先で控え目に声を上げ、そのくせブンブンと大きく腕を振って合図を送ってくる男。
服の袖や襟首から見えるたくさんの刺青と、狐みたいな細い目。
いつか、コンビニで出くわした男だった。
私が気がついたのに合わせて、男はこちらへ駆け足で寄ってきた。
「……なんでここに?」
「お迎えに」
お迎え?
「なんの?」
「とりあえず歩きましょう。あ、荷物持つっすよ」
「いや、いい……」
「どこか行く気でした?」
「銭湯に」
すると男は「なんだ」とバッグを奪い、ずんずんと歩き出した。
「ちょうどいいっすね!ウチ風呂あるんで。行きましょ」
「え、待って」
「歩きなんですけど、いいですよね?」
「あの、」
「僕、今日お話したくてバイク置いてきちゃって。辛いならタクりますけど」
「……ストップ!」
「はい?」
突然声を上げた私に、男はきょとん、と足を止めた。
そうそう。
ちょっと待ってほしい。

