「さ、入ってください」
「誰もいないよ?」
「中にいます」
「中?」
中なら、見てるけど。
一目で見渡せるほどの、狭い空間。
木製の床を一段上がった先には、小さなバーカウンター。
数脚の椅子が並び、その奥には酒瓶がびっしりと並んでいる。
それだけ。
「どうぞ」
導かれるままに足を踏み入れると、背後でガチャリ、と扉が閉まった。
その音が、やけに重たく感じた。
少し怖くなって「野間くん……?」と小さく声をかける。
「こっちっす」
ガコ、ガコ、と木箱を踏み鳴らすような足音を響かせながら、野間はカウンターの内側を進んでいく。
やがて突き当たりまで行くと、暖簾(ノレン)を片手で開き、私を待った。
「ここっす。この先にいらっしゃるんで」
「………」
「じゃあ、僕はここで」
「ちょ、ちょっと待って」
「マジで勘弁してください。僕は野暮ではないので」
心の準備が出来てない。
今さら慌てだす私もそっちのけ。
野間はスタスタと来た道を引き返すと、扉の先に消えて、
──ガチャリ、と外から鍵をかけた。


