WANTED / Myth.

は....?



「人間に、だよ」



ゾッ。




世界を癒す力を持つ、歴史上では「優しき」天使。

その象徴で、力の源でもあるはずの羽を、人間たちがよってたかって引き剥がしたんだ。



痛いほどわかる。家で差別されて、学校で踏みにじられてる私にとっては、痛いほど理解できる。



やばい。自分でもわかるくらい、激しく震えてる。吐き気がしそうで、反射的に口を強く抑えた。

そうじゃないと、喉の奥からどんな色かも想像できないものが出そう。



本当に、あの時みたい。


人間のどす黒い欲望と、狂気に満ちた目。



橋本くんも......



「人間の、玩具にされかけたんだね」



喉は親に怒られた時くらいに乾いていた。


私は柚木家にとって汚点でしかない。思い出したくもないけど、思い出しちゃう。


私が幼児の頃、実の家族の手でおぞましい研究施設へと売り飛ばされた。



白い部屋、冷たい注射針、自分を人間とも思わない手下たちの視線。


でも、あの時私を救ったのは皮肉にも私がすごく嫌悪していた銀狼の力だった。


あの日、私は本能のままに能力を発動した。



施設全体を揺るがす大地鳴りを起こして、檻を破って、命からガラ逃げ出した覚えがある。



あれ以上に怖い記憶なんてもちろんない。



「私は、なんとか逃げ出したけど、橋本くんは.....」



橋本くんの背中を見た。




気づけば、あの橋本くんの氷のように冷たかった目が、気づけばなんだか暖かくなっていた。


嘘でしょ。さっきの空気感、どこ行ったん。



彼は突然立ち上がると、私の手首を掴んで、強引に引っ張った。


ちょ、


「ちょっと!?!?何する気!?」



すとん。保健室のパイプ椅子に座らされる。



口は半開きなのに、何を言えばいいか分からない!



橋本くんは私の前に膝をついた。



予想はできた。多分。



もう手遅れだった。我に帰ると橋本くんの顔は私の膝の擦り傷に近付いていた。



「ストップストップストッ「うるせぇ」




ちゅ。





嘘でしょおおお!?



ズキズキと傷んでた傷が、スーッと消えていった。生まれたての赤ちゃんの肌みたいになっている。



「先生帰ってきたら自分で言うから!!!!」




無視。




おい!!!!




手を取られ、手の甲に橋本くんの綺麗な顔が近づいた。




ちゅ。




「ギャ「うるせぇっつーの」



普通の女子高生として、男子にそんな、腕や膝に何度もキスをされるなんて流石に刺激が強すぎる。



「.....っ、もういい、もういいから!ありがと、離して!!!」



顔が爆発しそうなほど熱くなって、私はついに橋本くんの手を振りほどいて5メートルくらい距離をとった。



さっきまでズキズキと痛んでいた腕と膝に目を落とすと、そこには痛みどころか赤みすら残っていなかった。

まるで生まれたてみたいに、白くて綺麗な肌に戻っている。



心臓の音が今までに聞いたこともないくらい、「ずどーん」「ばぼーん」「どがーん」と音を立てている。


男子にいきなり、腕や膝に何度も口付けを落とされるなんて、普通の女子高生が耐えられるわけがない。



私は両手で顔を覆ったまま、指の隙間から恐る恐る彼を見た。