珍しく仕事が入っていない休暇を一日もらえた。
普段は頭がおかしくなるほど多忙な日々を送っているが、1ヶ月に一度程度は丸一日の休みをもらっていた。
だからといって特にやりたいことがあるわけでもなく、私は適当に帽子を被って外へ出ることにした。
事務所にも家にも、いたくなかっただけだけど。
行くあてもなく、ただぼんやり歩いているうちに、気づけば見知らぬ公園まで来ていた。
夕方、空はゆっくりオレンジ色へ染まり始めている。
公園には人も少なく、子どもが数人遊んでいるくらいだった。
私は近くのベンチへ腰を下ろす。
静かだった。誰も私を見ない。
誰も話しかけてこない、笑顔も求められない。
それだけで、ここは少し呼吸がしやすかった。
「……」
夕日に染まった空を見上げる。
綺麗だな、とか。そんな感情も出てこない。
ただ、何も考えたくなかった。
その時。近くでガコン、と音がした。
音の方へ視線を向けると、少し離れた場所に自販機。
そこに一人の男が立っていた。
黒いパーカーに、黒いキャップ。適当に伸びた前髪。
そして、驚くほど整った顔立ちの___
「……」
すごい機嫌悪そうな顔してる。
……感じ悪そう。第一印象はそれだった。
男はだるそうに缶コーヒーを取り出すと、そのままこちらへ歩いてくる。
いや、こっち来るの?
思わず身構えた。
けれど男は私の隣にすわるわけでもなく、一つ離れたベンチへ腰を下ろした。
プシュッ。缶コーヒーを開ける音だけが静かに響いた。
私たちの間に会話はない。目も合わない。
……気まず。
いや、別に向こうは気まずくないのかもしれないけど。
勝手に私だけが気まずい。
私はそっと視線を逸らした。
なんか、変な人だな。それが率直な感想だった。
そんなことを考えている時。
「わっ!」
小さな悲鳴が聞こえた。
反射的に声のする方へ視線を向けると、近くで遊んでいた男の子が転んでいた。
膝を擦りむいたらしく、泣くのを必死に我慢している。
私は立ち上がった。
「大丈夫?」
男の子の前へしゃがみ込む。
膝から少し血が滲んでいた。
痛そう。
「他に怪我してない?」
「……うん」
今にも泣き出しそうな顔に、思わず苦笑する。
すると、視界の端に手が差し出された。
「使うか」
絆創膏。
見上げると、さっきの男が隣に立っていた。
いつの間に。
「……ありがとうございます」
男は何も言わない。
私は絆創膏を受け取り、男の子の膝へ貼った。
