天使は今日も嘘をつく〜愛されアイドルの隠しごと〜


「期待しているわ」


その言葉が、重たい鎖のように落ちてくる。


“期待”

そんなもの、私にとってはただの呪いでしかなかった。


期待され、褒められ、愛されるるたび、私は私じゃなくなっていく。


「はい」


それでも私は笑顔で返事をするしかなかった。

いつものように、誰もが望むように。
完璧な一ノ瀬琴葉を演じながら。


窓の外には青空が広がっていた。
どこまでも高くて、自由で。

なのに私には、そこへ手を伸ばすことすら許されていない気がした。







母との話が終わって個室へ戻った後___
部屋へ戻ると、翠はソファに寝転がりながらスマホをいじっていた。


「おかえりー」

「ただいま」


適当に返事をして、私は母から受け取った台本へ視線を落とした。


『来期放送予定』
『大型恋愛ドラマ』
『主演 一ノ瀬琴葉』
『相手役___東雲朔』


「はぁ……」


思わずため息が漏れる。

どうせ断れないし、どうせやるしかない。
だったら今から嫌になるだけ損なんだけど。


それでも面倒なものは面倒だ。
恋愛ドラマとか、恋愛とか。

まず人間に興味がないのに、どうやって恋をしろっていうんだろう。


そう思いながらソファへ腰を下ろすと、翠がひょいと身を起こした。


「何それ、新しい仕事?」

「うん、ドラマ」

「へぇ」


全く興味なさそうな返事をしながら、翠が台本を手に取る。

数秒後。


「あー」


なぜか納得したような声を出した。


「相手役、東雲朔なんだ」

「知ってる人なの?」


私が聞くと、翠は一瞬だけ目を丸くした。


「え、琴知らないの?」

「……知らないけど」

「マジ?」

「だって俳優とか興味ないし」


芸能界の人間なんて大体そんなものだろう。


共演しなければ会わないし、会ったとしても仕事が終われば終わりなんだから。

わざわざ覚える意味もない。


翠は呆れたように笑った。


「東雲朔だよ?」

「だから誰?」

「今一番売れてる俳優」

「へぇ」


翠は私の反応に少し眉を寄せた。


「超問題児でマネージャーにキレたとか、脚本家と大喧嘩したとか。あと女性ファンめちゃくちゃ多い」

「へぇ」

「お前、興味なさすぎだろ」

「だって興味ないんだもん」