天使は今日も嘘をつく〜愛されアイドルの隠しごと〜


「来期の連続ドラマよ」

「……そうですか」


アイドルの仕事を本業とする私に、ドラマや映画のキャストを依頼することは少なくなかった。

おそらく視聴率目的だろう。


「琴葉の主演が決まったわ」

「分かりました」


自分でも驚くほど平坦な声だった。
でも何も感じないのだから、仕方ない。


喜びも、期待も、楽しみも、何ひとつ。
昔は少しくらい何か感じていたのかもしれないけど。

でも今はもう思い出せない。


いつからだろう、何かを好きだと思えなくなったのは。
何かをやりたいと思えなくなったのは。


「恋愛ドラマなの」


母は微笑みながら、軽く手を叩いて言った。


……面倒だな。

恋愛、一番興味のないジャンルだ。
好きだの愛してるだの。くだらない。


私には誰かを好きになる余裕なんてないし、そもそも自分自身のことすらよく分からないのだから。


「若い世代向けの大型企画よ。話題性も十分あるわ」

「そうですか」

「お相手役も人気俳優の方だし」


だから何だろう。そんな言葉が喉まで出かかった。


そんなことを思っても絶対に口にはしない。
どうせ言ったところで変わらない。


母が、周りが決める。
私はそれに従う、ただそれだけ。

最初から私に選ぶ権利なんて与えられていないし、時間の無駄。


「東雲朔さんよ」


母の言葉に、私は瞬きをした。


___東雲(しののめ)(さく)


知らない名前だった。
さすがに全く聞いたことがないわけじゃない、たぶんテレビで何度も見ている。

でも興味がないから記憶に残っていない。


共演者が誰だろうと、俳優が何だろうと。
私には関係ない。

どうせ仕事が終われば赤の他人になるんだし。


「そうですか」


返事をすると、部屋の空気が少しだけざわついた。

マネージャーたちが顔を見合わせた。


「さすが琴葉様ですね」

「東雲さん相手でも動じないなんて」


……何がすごいんだろう。私は本気で分からなかった。

母はそんな私を見て満足そうに微笑んだ。


その顔を見た瞬間、胸の奥がじわりと痛んだ。
私はまた期待通りだったらしい。

また上手く演じられたらしい。
また、母を満足させてしまったらしい。


「顔合わせは来週よ」


その声は優しかった。
優しいはずなのに、どうしてこんなにも苦しいんだろう。

……息が詰まる。