天使は今日も嘘をつく〜愛されアイドルの隠しごと〜


「あら、琴葉。お疲れさま」


部屋に向かって歩いていると、後ろから母の声がした。

振り向けば、全身真っ白な高級ブランドの服を身にまとい、吐き気がするほど上品な笑みを浮かべた母が立っている。


その隣には、母の直属マネージャーたち。


「琴葉様、本日のお仕事もお疲れさまでした」


私は笑う。

可愛く、綺麗に。
誰もが好きになるような仮面を貼り付けて。


「ありがとうございます」


私の言葉に、母は満足そうに頷いた。


その母の笑顔を見た瞬間、胃の奥がひっくり返るような感覚に襲われた。

まただ、また私は期待通りに笑ってしまった。
また私は、何も言えなかった。


また、私は___

私は、何をやっているんだろう。


そんなことを考えても意味がない。
結局、私は母の思い通り動く“人形”でしかないのだから。


何も感じないふりをして、自分の感情に蓋をして。
母とマネージャーたちに軽く会釈をし、私はそのまま逃げるように個室へ入った。


「……あ、いたんだ」


ソファに座っていた人影へ視線を向ける。
長い脚を組み、スマホを眺めていた幼なじみが顔を上げた。


「おかえり、琴」

「ただいま」


そう言いながらドアを閉める。

私の個室を自由に出入りできる人間なんてほとんどいない。

母、数人のスタッフ。そして___久世(くぜ)(すい)

それくらいだ。


今、部屋の中には私たちしかいない。

だからもう無理に笑わなくていいし、愛想よく相槌を打たなくていい。
誰かの期待に応える必要もない。


そう思った瞬間、全身から力が抜けた。
さっきまで綺麗に伸びていた背筋が崩れ落ちる。

翠はそんな私を見て、くすっと笑った。


「相変わらずキラキラアイドルやってるんだね」

「……うるさい」


私は翠の隣へ腰を下ろす。

深く息を吐いた。


疲れた。本当に疲れた。

何もしたくない。
誰とも話したくない。誰の顔も見たくない。


薄っぺらい笑顔を貼り付けて、可愛い言葉を並べて、愛されるためだけに生きる毎日なんて、もううんざりだ。


「そんな姿、ファンの子たちが見たら泣くよ」

「知らない」

「永遠の天使さん」

「やめて」


反射的に言葉が鋭くなる。


私はその呼び名が嫌いだ。大嫌い。

永遠の天使?聞くだけで頭が痛くなる。