午後の打ち合わせも終え、私は長い廊下を歩いていた。
ようやく終わった。
ずっと気を張っていたせいか、会議室を出た瞬間、どっと疲れが来た。
ドラマの説明だの、挨拶だの、写真撮影だの。
ずっと笑顔を貼り付けていたせいで頬が痛い。
「はぁ……」
誰もいない廊下で小さく息を吐く。
その時、後ろからふわりと腕が回された。
「やっほ」
聞き慣れた声と一緒に、爽やかな香りが鼻先を掠めた。
シャンプーなのか香水なのか分からないけれど、柑橘とミントを混ぜたみたいなすっきりした匂い。
昔から変わらない、翠の匂いだ。
「うわっ」
肩が跳ねる。振り返らなくても分かる。
「翠!」
背中にぴったり張り付いてくる幼なじみに眉をひそめた。
「何してんの」
「んー?」
「んー?じゃない」
ぐりぐりと頭を押し返す。
けれど翠は離れるどころか、むしろ楽しそうに肩を揺らした。
「琴に会いたかったから」
「嘘つけ」
「バレた?」
くすくすと笑う声が耳元で響く。
相変わらず、昔から人との距離感がおかしい。
「もう少し人目気にしてよね」
呆れながら言う。
「ほんとに熱愛とか出たらどうするの」
「別に」
「別にじゃない」
「琴が俺のこと好きでいてくれるなら、それでもいいけど」
「だからそういう問題じゃなくて!」
即座に否定すると、翠は声を上げて笑った。
絶対面白がってる。
この人は本当に……
翠も、今や人気俳優の一人だ。
ドラマに映画にバラエティ。
街を歩けば気付かれるし、SNSで名前を見ない日なんてない。
そんな久世翠が、国民的アイドルの一ノ瀬琴葉に抱きついているところなんて見られたら大騒ぎになる。
なんなら大騒ぎどころでは済まない。
「翠だって困るでしょ」
そう言うと、翠は少しだけ目を細めた。
そして。
「俺は気にしないよ」
さらりと言った。まるで本当にどうでもいいみたいに。
ようやく終わった。
ずっと気を張っていたせいか、会議室を出た瞬間、どっと疲れが来た。
ドラマの説明だの、挨拶だの、写真撮影だの。
ずっと笑顔を貼り付けていたせいで頬が痛い。
「はぁ……」
誰もいない廊下で小さく息を吐く。
その時、後ろからふわりと腕が回された。
「やっほ」
聞き慣れた声と一緒に、爽やかな香りが鼻先を掠めた。
シャンプーなのか香水なのか分からないけれど、柑橘とミントを混ぜたみたいなすっきりした匂い。
昔から変わらない、翠の匂いだ。
「うわっ」
肩が跳ねる。振り返らなくても分かる。
「翠!」
背中にぴったり張り付いてくる幼なじみに眉をひそめた。
「何してんの」
「んー?」
「んー?じゃない」
ぐりぐりと頭を押し返す。
けれど翠は離れるどころか、むしろ楽しそうに肩を揺らした。
「琴に会いたかったから」
「嘘つけ」
「バレた?」
くすくすと笑う声が耳元で響く。
相変わらず、昔から人との距離感がおかしい。
「もう少し人目気にしてよね」
呆れながら言う。
「ほんとに熱愛とか出たらどうするの」
「別に」
「別にじゃない」
「琴が俺のこと好きでいてくれるなら、それでもいいけど」
「だからそういう問題じゃなくて!」
即座に否定すると、翠は声を上げて笑った。
絶対面白がってる。
この人は本当に……
翠も、今や人気俳優の一人だ。
ドラマに映画にバラエティ。
街を歩けば気付かれるし、SNSで名前を見ない日なんてない。
そんな久世翠が、国民的アイドルの一ノ瀬琴葉に抱きついているところなんて見られたら大騒ぎになる。
なんなら大騒ぎどころでは済まない。
「翠だって困るでしょ」
そう言うと、翠は少しだけ目を細めた。
そして。
「俺は気にしないよ」
さらりと言った。まるで本当にどうでもいいみたいに。
