今回のドラマは『運命の一目惚れ』という学園恋愛もの。
タイトルの通り、高校生の青春を描いたラブストーリーだ。
ヒロイン役を一ノ瀬琴葉、ヒーロー役を東雲朔が演じる。
監督から軽い説明や詳細を受けて、少しの休憩時間に入った。
私は廊下で台本を読んでいた。
少しだけでも、一人になりたかった。
その時。
「おい」
後ろから、聞き覚えのある声がした。
顔を上げると、東雲朔がズボンのポケットに手を入れながら立っていた。
予想通り無愛想な顔。
「……何ですか」
私の声に、東雲は少しだけ眉を寄せた。
「お前さ、何がしたいんだよ」
言葉の意味が、分からなかった。
「は?」
思わず聞き返すと、東雲はため息を吐いた。
「公園にいたお前と、路地裏にいたお前と」
一歩近づく。
「今のお前」
黒い瞳が真っ直ぐ私を捉える。
逃げ場なんてないみたいに。
「全部別人なんだけど」
心臓が大きく跳ねた。
息が詰まる。そんなこと、考えたこともなかった。
いや、考えないようにしていただけかもしれない。
「何の話ですか?」
私は反射的に笑う。
考えるより先に出てくる笑顔。
東雲はそれを見て露骨に顔をしかめた。
「ほら、それ」
「……」
「その顔」
嫌な予感がした。東雲は容赦なく言う。
「気持ち悪い」
「は?」
一瞬で頭に血が上る。
「さっきから失礼なんですけど」
「失礼で結構」
即答だった。
本当に感じが悪い。腹が立つ。
なのに、東雲は私から目を逸らさない。
「公園にいた時の方がマシ」
「……」
「路地裏の時も」
「……」
「そっちの方がお前っぽい」
胸の奥がざわつく。
嫌だった、そんなこと言われるのが。
そんなこと見抜かれるのが。
だって誰も気づかなかったのに。
誰も見ていなかったのに。
「……知ったようなこと言わないでください」
気づけば声が強くなっていた。
東雲は黙った。
そして、ほんの少しだけ。本当に少しだけ口元を緩めた。
「やっと出た」
「……何がですか」
「今の顔」
東雲は満足したみたいに言った。
「その方が全然いい」
そう言って、東雲は私の頭をぽんぽんと撫でた。
……完全にガキ扱いされてる。
「……そんなこと言うの、東雲さんくらいですよ」
