天使は今日も嘘をつく〜愛されアイドルの隠しごと〜


黒いパーカーに、黒い帽子。不機嫌そうな顔。


「あ」


思わず声が漏れる。

この間の、公園の人だ。
なんでこんな所にいるんだろう。マネージャーか何かなのかな。


私がちらちらと見ていたら、向こうもこちらに気づいたらしい。
一瞬だけ目が合ったけど、男はすぐに視線を逸らした。

まるで知らないふりをするみたいに。


「あなたはいつもそうです!」


女性が声を荒げる。


「現場の人たちがどれだけ迷惑してると思ってるんですか!?」


男は黙ったままだ。


「好き勝手して、周りに尻拭いさせて!才能があるからって何をしても許されると思ってるんですか!?」


空気が張り詰める。
女性の言葉に、私は思わず顔をしかめた。

帰ろう。そう思ったけど。


「どうしてあなたは普通にできないんですか!?」


その言葉に足が止まる。胸の奥が少しだけ痛んだ。


どうして普通にできないの。
期待に応えられないの。あの子みたいになれないの。

私が、昔から何度も聞いた言葉だった。
だから、気づけば口を開いていた。


「あの」


二人が同時にこちらを見る。

うわ、めちゃくちゃ見られてる。
帰りたい。今すぐ帰りたい。


「少し言い過ぎじゃないですか」


自分でも驚くくらい静かな声だった。

女性が固まる。


「え……」

「仕事の事情は分かりませんけど」


私は続ける。


「そんな言い方しなくてもいいと思います」


女性の顔色が変わった。

まずい。私、絶対余計なこと言った。
でも後悔した時にはもう遅くて。


「こ、琴葉さん!お見苦しところを、申し訳ありません……」


女性は気まずそうに頭を下げた。

その時、女性の電話がなった。
「失礼します」慌てて女性が応答すると。


「東雲さん、後でまた連絡しますからね!」


そう言い残して去っていった。

東雲。その名前に少しだけ引っかかる。


でも考える前に静寂が戻ってきた。
残されたのは私と男の人だけ。

気まずい。ものすごく気まずい。


「……」

「……」


先に帰ろうかな。そう思った時だった。


「また会ったな」


男が言った。


「そうですね」

「お前暇なのか?」

「失礼ですね」


即答すると、男は少しだけ口元を緩めた。

……笑った。初めて見たかもしれない。


「お前も相変わらずお節介だな」

「別にお節介じゃないです」

「じゃあなんだよ」

「……聞いてて気分悪かっただけです」