天使は今日も嘘をつく〜愛されアイドルの隠しごと〜


眩しいほどの光が降り注ぐステージの上で、私は今日も笑う。

大勢の歓声に手を振り、私の名前を呼ぶ声に応え、ファンへ向けてとびきりの笑顔を向ける。


「琴葉ちゃーん!」

「今日も可愛いよー!」

「永遠の天使ー!」

「愛してるー!」


耳が痛くなるほどの歓声が会場の空気を揺らす。
私はそれに応えるように完璧な笑顔で微笑んだ。


可愛く首を傾げて、手を振って、しまいには投げキスまでしてみせる。

ファンの歓声はさらに大きく、人々の熱は一気に跳ね上がる。


___ほら。
やっぱりみんな、こういう私が好きなんだ。


優しくて、可愛くて、愛嬌があって。
誰からも愛される“永遠の天使”。


それが、一ノ瀬(いちのせ)琴葉(ことは)


私自身がどれだけ嫌悪していても。
私自身がどれだけ吐き気を覚えていても。

誰もそんなことは望まない。
みんなが求めているのは、私じゃない。


“永遠の天使”だけだ。


だから私は今日も笑う。


本当は笑いたくなくても。笑う理由なんてどこにもなくても。

どうせ誰も気づかないから。どうせ誰も見ていないから。







ライブが終わり、ステージを降りると同時に、頬に貼りつけていた笑顔が剥がれ落ちた。


「琴葉ちゃん、今日のライブもお疲れさまー!」

「相変わらず、歌もダンスもずば抜けてたねぇ!」

「えぇほんとですか〜?もう褒めすぎですよ〜」


スタッフたちの言葉に、私は反射みたいに笑って返す。


もう癖だった。

感情なんて込めなくても、これくらいの対応は呼吸をするようにできる。

こんな作り笑顔を何年も続けていれば、人間なんて簡単に壊れる。
そして壊れたことにすら気づかなくなる。

愛想よく笑っていれば、みんな満足する。

私の気持ちなんて関係ない。

みんなが欲しいのは、都合のいい一ノ瀬琴葉だから。



事務所へ戻り、専用フロアの奥にある高級ホテルのような個室へ向かう。

磨き上げられた黒い床。

息が詰まるほど静かな廊下。

柔らかく光る照明。

どこを見ても完璧で、どこまでも綺麗で。

だからこそ気持ち悪い。

ここにいると、自分が巨大な鳥かごに閉じ込められているような気分になる。



「あら、琴葉。お疲れさま」

母の声がした。

振り向けば、全身真っ白な高級ブランドの服を身にまとい、吐き気がするほど上品な笑みを浮かべた母が立っている。

その隣には直属のマネージャーたち。

「琴葉様、本日のライブもお疲れさまでした」

私は笑う。

可愛く。

綺麗に。

誰もが好きになるように。

「ありがとうございます」

そう言うと、母は満足そうに頷いた。

その顔を見た瞬間。

胃の奥がひっくり返るような感覚に襲われた。

まただ。

また私は期待通りに笑ってしまった。

また私は何も言えなかった。

また私は――。

私は何をやっているんだろう。

そんなことを考えても意味がない。

意味がないからこそ苦しい。

何も感じないふりをして、そのまま逃げるように個室へ入った。