星降る夜に、あの日のキスをもう一度

 メロディは父親の腕に抱かれるような形で立っていたものの、今は少し離れて両手を腰に当て、目一杯胸を張って父親を叱りつけている。そして、さっきとは打って変わってキラキラした目で興味深そうにアンジェラと少年を交互に見た。

「先生、かっこよかったです」

 その様子に思わず吹き出す。そして、ああ、素のほうが正解だったかと感じた。
 理由があって上品な老女に見えるよう幻視の魔法をかけていたのだが、これは娘が言ったように必要なかったようだ。

「メロディ、怖くなかった?」

 優しく聞くと、彼女がぶんぶんと首を縦に振る。

「びっくりしただけです」

 チラッと怖そうに飛竜のほうを見たけれど、再びアンジェラを見ると、何か期待したように目を輝かせている。メロディには幻視であること自体がばれているのだと思い、胸の奥からふつふつと笑いがこみ上げてきた。

「じゃあ悪いけど、もう一回驚かせるわ」

 そう言ってアンジェラは清浄魔法をかけてから剣をしまい、同時に幻視を解く。
 ふくらんだ短い白髪はゆるく背中まで波打つ黒髪に、猫背でふくよかに見せていた身体はほっそりと姿勢よく。もうすぐ四十歳になる顔には、目元に薄い笑い皺が少しあるものの肌には張りがあって、薄暗い場所でなら二十代後半でも通る若々しさだ。

 目の前で姿が変わったアンジェラを凝視するコンラッドに丁寧に一礼すると、ますます目を輝かせるメロディに気づき、片目をつむって見せた。
 大変意外なことに、この姿がお気に召したらしい。

「こっちが本当の姿よ。改めまして。今日から娘の代理で臨時の家庭教師に参りました、アンジェラ・ドランベルです。そして飛竜に追いかけられていた彼は、わたくしの友人の子で」

 自己紹介なさいと目で促すと、少年は優雅に一礼する。

「エドガー・ゴルドです。この度は危ないところを助けていただき、ありがとうございました」

「まさか……」

 なぜか呆然としたコンラッドに、微かに首をかしげる。
 そして、エドガーとの偶然の出会いによって、この不可解な出来事がアンジェラの仕業だと疑われたのではないかと思い、慌てて否定しようと首を振る。
 その瞬間猛烈なめまいと吐き気に襲われ、アンジェラはゆっくりと膝をついた。