わたしは悪役令嬢になった転生一度目、婚約破棄され、処断された。転生二度目、浮気され心も体も壊れた。相手側は自分が間違っていたと後で思う。でも間に合わない。転生三度目は、素敵な王太子殿下に溺愛されます。

 今日のルシャール殿下はいつもと違う。

 今までは、心やさしくわたしに接していて、このような怒声を発することはなかった。

 わたしはその剣幕に驚く。

 わたしが高らかに笑っても、微笑んでくれていたのだ。

 なぜこんなに怒らなくてはならないのだろう。

 心外でしょうがない。

 まあ、ここは少しわたしが譲ってあげよう。

 わたしはルシャール殿下をなだめるべく、

 「ルシャール殿下、そんなにお怒りされては、せっかくの美しいお顔が台無しですわ。全く、どうして人が少し笑ったぐらいでお怒りなさるのか、わたしには理解できませんわ。ルシャール殿下はやさしい方だと思っておりますのに」

 と言った。

 いや、なだめるつもりが、どうしても嘲り笑うような形になってしまう。

 まあ、いいや。

 わたしがこの後、冗談を言ったことを殿下に厳しく注意すれば、いつものように、わたしに屈することだろう。

 わたしがそう思っていると、ルシャール殿下は、

 「きみがわたしを怒らせるようなことをするからだろう! 何を言っているんだね、きみは。わたしはそういうきみの傲慢なところが嫌いなんだ」

 とさらに怒りを増幅させながら言った。

 わたしがルシャール殿下に少し譲ろうとしたらこれだ。

 そろそろ厳しく言うべきだろう。

 わたしが反撃をしようとしていると、ルシャール殿下は、

 「とにかくきみとの婚約は破棄するのだ。これは決定したことだ」

 と言った。

 わたしはそれに対し、

 「まだそんなことをおっしゃるのですか? わたしとの婚約を破棄したとおっしゃるのであれば、当然、次の婚約者は決まっておりますわよね?」

 と意地悪い微笑みを浮かべながら言った。

 婚約破棄など、でまかせで言っているだけ。

 そんな女性、いるわけがない。

 わたしほどの才色兼備で、妃にふさわしい女性など、この世の中には存在しないのだから。

 さあ、ルシャール殿下、

 「婚約破棄のことは冗談でした」

 と言ってわたしに謝るべきよ。

 そうすれば、わたしの怒りも小さいものですむのですから。

 しかし……。

 「新しい婚約者は、わたしの隣にいるボードリックス公爵家令嬢オディナティーヌだ!」

 ルシャール殿下は、そう高らかに宣言した。

 ルシャール殿下のそばで恥ずかしそうに微笑むオディナティーヌ。

 まだ騒然となる出席者。

 あまりにも意外な人物だったからであろう。

 オディナティーヌ。

 オクノラール公爵家出身のわたしの継母の連れ子。

 ボードリックス公爵家の養子になっている為、わたしの義理の妹で、年齢はわたしの一個年下の十七歳。

 わたしはこの王国で一番と言えるほどの美しさを誇っているが、妹もわたしには及ばないけれども、美しい女性ではなる。

 甘やかされて育ってきたので、彼女の立ち振る舞いは、厳しくしつけられてきたわたしからすると、貴族としての一般的なレベルにも到達していないように思える。

 わたしはいつもそのことを妹に注意をしてきた。

 しかし、その場では、

 「お姉さまのおっしゃる通りにいたします」

 と言うのだが、いわゆる「聞き流し」というもので、一向に聞き入れる気はないようだった。

 そんな妹を、婚約者にしようというのだ。

 わたしは、

 「今まで言ったことのない冗談をおっしゃりますんのね。この妹がルシャール殿下の婚約者だなんて」

 と言った後、先程よりもさらにルシャール殿下のことを嘲るように笑った。

 ルシャール殿下は、

 「なにがそんなにおかしい! 婚約破棄されて、しかも、新しい婚約者をきみの前で披露したというのに、よくそんなに笑っていられるものだ! 普通だったら、しおらしくするものだろう!」

 と厳しく言う。

 「それは、ルシャール殿下が冗談ばかりおっしゃるからですわ。おかしくて、おかしくて」

 「全く、なんというどうしょうもない人なんだ、きみは」

 ルシャール殿下は、怒りを通り越したようで、今度はあきれているようだ。

 それがまた、わたしのつぼにはまる。

 「ルシャール殿下、面白くてたまらないところですが、せっかくの舞踏会でございます。そろそろこのような余興は終わりにしませんか? 第一、わたしが婚約破棄をされる理由が全く思いつきません。ルシャール殿下がわたしとの婚約を破棄されて、妹と婚約されたということは、よほどの理由があったのでしょうね。その理由をお聞かせいただけませんでしょうか? どうせたいした理由などないのでしょうけど」

 わたしはルシャール殿下に対して、再び意地の悪い微笑みを向けた。