さよならより優しい嘘

一章 スターチス
「紬〜?そっちの荷物片付いた?」
 「こっちの荷物は引っ越し屋さんが持ってってくれたよ〜」
 「じゃ、残ってんのは俺らだけだな」
 半袖のTシャツをきた陽が首元のタオルで額の汗を拭いながらこちらにやってくる。
 「なにも今日みたいな暑い日じゃなくても良かったんじゃねぇの?」
 「だって急に暑くなったじゃん。しょうがないよ」
 「にしても…紬がこの街離れるっていうと思わなかった」
 少し伺うようにこちらを見る陽を少し苦笑して答える。
 「んー、そうだね…。仕事の都合がなかったら、今回の引っ越しもなかったかもね」
 そう言ってすっかり荷物も家具も無くなったアパートの部屋をゆっくりと眺める。その視線は自然と写真たてとスターチスの花が飾ってあった場所にいってしまう。
「そこの写真とか花とか持ってったんだよね?」
「うん。先に花とかは持っていっといた」
「あの花ってなんて名前だっけ?」
「スターチス。花言葉は変わらぬ心とか途絶えぬ記憶とか」
「そういやそうだったね。俺、たまに忘れちゃうんだよなー」
 少しバツ悪そうに頭をかいている陽を微笑ましげな気持ちで見てしまう。遼君もよくあーいう顔して頭かいてたなぁ。結局、あの一枚しか写真撮らせてくれなかったし。
 「あのー、そろそろ行かないと俺らも間に合わないんすけど…」
 苦笑いをしてポリポリと頬を掻きながら陽が玄関から靴を履いた状態でこちらを見る
 「あ!ごめん!そろそろ行かなきゃだよね」
 紬もパタパタと玄関に向かい、靴を履いて玄関を出て、鍵を閉める。鍵を管理人に返した後に、車に乗る。
 「もうこっちにくることも少なくなるかもな」
 車を走らせながら陽が少し寂しげに言う。
 「そんなことないと思うよ。春の花見の時とか夏祭りとかこっちの方が良いことあるから」
 「確かに。じゃあこっちに来ることも多いかもね」
 少し笑って答える陽に、陽のようにうまく笑えていたかわからない。
 地元とももうお別れか…いろんなことがあったな
 窓から見える景色を眺めて今までのことを思い出す。それでも一番に思い出すのはいつも隣で笑っていた1人の男の子の姿だった。
 今日でもうこの街離れるけど、また戻ってくるから。だから待っててね、遼君。
 風間遼君。陽の幼馴染で、高校の時に出会った私のもう今はいない初恋の人。