Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

そのときだった。
ふいに、背中のあたりをひやりとした気配が撫でた。

風ではなかった。
夕方の冷たさとも違った。
もっと深いところから、静かに滲み出すような影。

柚歩は思わず立ち止まり、振り返った。
けれど、そこには誰もいなかった。
ただ、街のざわめきが遠くで揺れているだけ。

優海が心配そうに覗き込む。

「どうしたの?」

「……ううん、なんでもない。ただ……なんか、変な感じがして」

自分でも説明できないざわつきが胸の奥に残っていて、
指輪を握る手に少しだけ力が入った。

何かが近づいている。
そんな予感だけが、夕暮れの光の中に静かに溶けていく。

優海は柚歩の手をそっと包んだ。

「帰ろう。今日は、ゆっくり休も」

柚歩は頷き、もう一度前を向いた。

指輪の光が胸の奥でかすかに揺れて、
そのすぐ後ろで——
見えない影が静かに息を潜めていた。