Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

麻衣は湯気の消えたカップを両手で包みながら、少しだけ遠くを見るように息をついた。

「わざわざ来てもらってごめんね。手紙が届いたからびっくりしたでしょ。今日ね、あなたのお母さんと……あなたの知らないお父さんのことについて話そうと思って、手紙を書いたの」

柚歩は小さく頷いた。

「私、お父さんのこと知らないです」

「そうよね。あなたが生まれた時にはもう、お父さん——歩さんっていうのよ。歩さんは亡くなった後だった。あなたが生まれることも知らずに……。お母さんはお父さんの最後を見とれなかったの。亡くなった後に知って、離れるべきじゃなかったって後悔していたわ」

その言葉は静かに胸に落ち、柚歩は自然と背筋を伸ばした。

麻衣はゆっくりと言葉を選ぶ。

「……あの二人が出会ったのはね、ずいぶん前のことなの」

その声は懐かしさと痛みが混ざっていて、部屋の空気が少しだけ揺れた。

「友香ちゃんはね、最初から明るい子だったわけじゃないの。笑うとすごく可愛いのに、普段はどこか影があって……でも、歩くんはそんな影ごと好きになったんだと思う」

柚歩の胸が少し震えた。
知らない母の姿が、静かに形を持ちはじめる。

麻衣は続けた。

「二人が初めて話したのは、たしか雨の日。友香ちゃんが傘を忘れて、歩くんが黙って差し出したの」

「『入る?』って、それだけ。あの子、不器用だから」

雨の音まで聞こえてくるような静けさが、部屋に落ちた。