Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

部屋に戻った瞬間、柚歩はもう立っていられなくて、玄関にしゃがみ込んだまま胸元を握りしめた。
ペンダントがまだ温かくて、琉生の手の温度が残っているみたいで、触れるたびに胸が痛んだ。
しばらく泣いて、ようやく顔を上げたとき、柚歩はそっとペンダントを外した。震える指で机の上に置くと、光がひとつ、そこに取り残されたように見えた。触れたらまた泣いてしまう気がして、そのまま手を離した。“今は持っていけない”
──そう思った。自分で決めた。
その夜、柚歩はペンダントに触れないまま眠った。

どれくらいそうしていたのかわからない。
呼吸が少しだけ落ち着いた頃、玄関のポストが小さく鳴り、
紙の触れ合う乾いた音が静かな部屋に落ちた。

柚歩は顔を上げる。
涙で滲んだ視界の向こう床に一枚の封筒が落ちていて、白い紙の端がわずかに揺れていた。

差出人の名前を見た瞬間、胸の奥がまた強く揺れた。

――麻衣

その名前は母の友人の名前だった。どうして、いまさら……。
静かに深く柚歩の心に落ちていき、
胸の奥で何かがゆっくりと軋むように動き出した。
涙の熱がまだ頬に残っているのに、その名前だけが別の痛みを連れてきて呼吸がまた少しだけ乱れた。

――開けなきゃいけない。
でもいまはまだ触れたくない。
何か嫌な予感はしたものの、今の精神状態では何かにすがっていきたかった。

その封筒を見つめたまま、動けずにいた。

そしてこの小さな封筒が、自分の世界をこれから大きく変えていくことを、まだ知らなかった。