Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

美桜が勇気を振り絞るように小さく手を上げた。

「……あの……匿名ボーカルでも……成立するんでしょうか」

控えめな声。どこか申し訳なさが滲んでいた。
久遠は静かに答えた。

「むしろ匿名の方が、“光”が際立つと思います」

その瞬間、琉生の視線が柚歩に向かった。
胸が跳ねた。

「……仮歌として、葉山さんの声を使わせてもらえませんか」

会議室の空気が揺れた。

柚歩は言葉を失う。

優海が優しく微笑む。

「柚歩の声なら、きっと合うと思う」

要が静かに背中を押す。

「無理にとは言わない。でも……葉山さんの声は、この企画に必要だと思う」

美桜が視線を落としたまま、小さく言った。

「……前に少しだけ……葉山さんの声を聞いたことがあって……その……すごく綺麗だと思いました」

その声には、ピアス事件の負い目が滲んでいた。

柚歩は胸に手を当てた。

——歌うのは怖い。
——顔出しはできない。
——でも……
 この人たちが、こんなふうに言ってくれるなら……

ゆっくりと、小さく頷いた。

「……仮歌なら……やってみます」

その瞬間、琉生の表情がわずかに緩み、久遠は静かに目を伏せ、優海は嬉しそうに微笑み、要は安心したように息を吐き、美桜は胸の前でそっと手を握った。

会議室の空気が、少しだけ温かくなる。

***

会議が終わり、人が少し散ったタイミング。

美桜が柚歩の後ろ姿を見つめていた。
声をかけようとして——やめた。

唇を噛む。

——まだ……言えない。
——でも、ちゃんと……言わなきゃ。

その小さな決意だけが、静かに胸に灯っていた。

未来が、確かに動き始めていた。