Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

病室の窓から差し込む光は、夕方の色を少しだけ帯びていた。

歩はその光を見つめながら、ゆっくりと息を整えた。

麻衣は、歩の隣に静かに座った。
涙を見せないように、
呼吸を整えるように。

歩は弱々しく笑った。

「……麻衣ちゃん」

その声は、いつもの優しさのままなのに、
どこか遠く感じられた。

「僕ね……ずっと思ってたんだ」

麻衣は歩を見つめた。
歩は、窓の外の光を見たまま続けた。

「いつか……この光を必要とする子が現れるって」

麻衣の胸の奥が、
静かに揺れた。

歩はゆっくりと麻衣の方へ視線を向けた。

「その子が……未来を必要とした時、
 この指輪が……きっと支えになると思うんだ」

麻衣は唇を噛んだ。
涙がこぼれそうになるのを必死でこらえた。

歩は、麻衣の震えを見て、
少しだけ笑った。

「麻衣ちゃんは……泣かないんだね」

麻衣は首を振った。

「……泣いたら、歩くんが……もっと苦しむから」

その声は震えていた。
でも、まっすぐだった。

歩はゆっくりと手を伸ばし、
麻衣の手に触れた。

「ありがとう……麻衣ちゃん。
 僕の未来を……守ってくれて」

麻衣は何も言えなかった。
言葉にしたら、涙が溢れてしまうから。

歩は小さく息を吐いた。

「友香ちゃんに……渡したかったんだ。
 でも……届かなかった」

麻衣は指輪の箱を胸に抱いた。
その小さな光が、歩の願いそのものだとわかっていた。

「……麻衣ちゃん」

歩は最後の力を振り絞るように言った。

「この光を……未来に渡してほしい。
 いつか……必要とする子が現れたら……その子に」

麻衣は強く頷いた。

「……渡す。
 絶対に……未来へ渡す」

涙はこぼれなかった。
こぼさなかった。

麻衣は影のまま、歩の願いを受け取った。

その日、
歩の未来への願いは静かに託された。

そして同じ日、
麻衣の影の恋は、
誰にも知られないまま深く痛んだ。

誰にも気づかれないまま。
誰にも届かないまま。