Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

◆優海
久遠くんの手に触れた夜から、
胸の奥がずっと落ち着かなかった。

痛みではない。
でも、温かいとも言い切れない。

ただ——
何かが揺れていた。

仕事終わり、久遠くんが私を呼び止めた。

「優海、少し……いい?」

その声が、いつもより少しだけ震えているように聞こえた。

私は立ち止まり、
久遠くんの方を向いた。

街灯の下、薄桃色の影が揺れた気がした。

久遠くんは深く息を吸い、
ゆっくりと言葉を探した。

「……優海のことが、好きだ。優海が困るのはわかってる。
でも、このまま気持ちを隠すのは俺らしくないと思って」

胸の奥が、静かに跳ねた。

久遠くんは続けた。

「ずっと、影の中で誰かを支えてきた優海が……
 光に向かって歩けるようになったらいいって思ってた。
 でも、それだけじゃなくて……
 俺は、優海自身を大切にしたい」

その声は、優しさだけじゃなく、
痛みも抱えた告白だった。

私は何も言えなかった。

琉生君を好きだった時間。
気づかないふりをしてきた自分。
久遠くんの優しさに揺れた夜。

全部が胸の奥でほどけていくようだった。

「……久遠くん」

名前を呼んだ声が、
自分でも驚くほど弱くて、
でも確かに“咲いた”と感じた。

久遠くんの目が、そっと揺れた。

その瞬間、私は気づいた。

久遠くんの想いに、
ずっと気づいていたこと。

気づけなかったのは——
自分の想いの方だった。

薄桃色の影が、光に触れた。

それは、
私の心が初めて久遠くんに向かって開いた瞬間だった。

◆久遠
優海が名前を呼んだ声は、かすかで、
震えていて、
でも確かに咲いた花のようだった。

その声を聞いた瞬間、
胸の奥が熱くなった。

優海は俯いたまま、言葉を探していた。

逃げる気配はなかった。
拒む気配もなかった。

ただ——
揺れていた。

久遠はそっと手を伸ばし、
優海の指先に触れた。

優海は、
ゆっくりと顔を上げた。

その目に宿った光は、
影の色ではなかった。

「……久遠くん、私……。
 久遠くんの気持ち、わかっていたのに……ずっと気づかないふりしてごめんね」

言葉にならない声が、
確かに久遠の胸に届いた。

優海の心が、
初めて自分に向かって咲いた瞬間だった。

ふたりの距離は、もう“触れた温度”だけではなく、
“咲いた声”で結ばれた。

それが、この日の意味だった。