Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

♦優海 
仕事帰りの夜道は、いつもより少しだけ暗く感じた。

胸の奥が重かった。
理由はわかっている。
久遠くんの言葉が、思っていた以上に心に触れてしまったからだ。

「……優海は、そのままでいいんだ」

その声が、
ずっと抱えてきた痛みに触れた。

私は立ち止まった。
書類を抱えた手が、わずかに震えていた。

「久遠くん……」

名前を呼ぶ声が弱くなる。
こんなふうに誰かに弱さを見せたのは、
いつ以来だろう。

久遠くんは驚いたように私を見た。
でも、責めるでもなく、
ただ静かに寄り添う目だった。

「優海……?」

その呼び方が、
胸の奥にそっと落ちた。

私は言葉を探したけれど、
何も言えなかった。

ただ、
涙がこぼれそうになるのを必死にこらえた。

その瞬間——
久遠くんの手が、
そっと私の指先に触れた。

驚くほど優しい温度だった。

逃げなかった。
離れなかった。

影の中にいた自分が、光に触れたような気がした。

◆久遠
優海が立ち止まった瞬間、胸がざわついた。

書類を抱えた手が震えている。
いつも強く見える人が、
こんなふうに弱さを見せるなんて。

「優海……?」

名前を呼ぶ声が自然と柔らかくなる。

優海は俯いたまま、言葉を探していた。

その横顔は、
薄桃色の影が揺れているように見えた。

触れてはいけない気がした。
でも——
触れなければ届かない気もした。

久遠はそっと手を伸ばし、優海の指先に触れた。

ほんの少しだけ。
壊さないように。
逃げられるように。

でも、優海は離れなかった。

その温度が、
胸の奥に静かに広がった。

「……優海は、ひとりで背負いすぎだよ」

優海は小さく息を吸った。
その揺れが、
影から光へ向かう合図のように見えた。

ふたりの距離は、
ほんの少しだけ縮まった。

触れた温度が、
その証だった。