Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

久遠くんの優しさには、ずっと気づいていた。

気づいていたのに——
気づかないふりをしてきた。
私は小さい頃から、琉生君しか見てこなかったから……。

胸の奥が痛む理由を、自分でもわかっていたからだ。

琉生君が誰を好きでも、私のことは妹だと接してくれていた7年間。
ずっと、ほっとけない自分がいた。

琉生君が柚歩ちゃんを見つめる横顔。
届かない気持ちを抱えたまま笑う姿。
その全部を、私は知っていた。

だから、
自分だけ光に出ることが怖かった。

琉生君の痛みを知っている自分が、幸せを選んでいいはずがない——
ずっとそう思っていた。

口約束だったとしても、琉生君の婚約者だと周りに認識されていたことは嬉しかった。

だから、久遠くんが優しくしてくれるたび、
胸の奥がきゅっと縮んだ。

その優しさを受け取ってしまったら、
私は自分の気持ちを裏切ることになる気がした。

ある日の帰り道。
琉生君と柚歩ちゃんの話題になった瞬間、私は思わず目を伏せた。

久遠くんは、
その一瞬を見逃さなかった。

「……優海は、誰かの痛みを背負いすぎだ」

その言葉は、
胸の奥の痛みにそっと触れた。

私は驚いたように顔を上げた。
久遠くんの目は、
責めるでもなく、
慰めるでもなく、
ただ優しかった。

何で、琉生君だったのかな。
久遠くんのこと好きだったなら、苦しまなくてもいいのに。

「そんなに自分を追い詰めなくていい……。
 優海は、そのままでいいんだ」

その声を聞いた瞬間、肩がわずかに揺れた。

気づかないふりをしてきた時間が、静かにほどけていくようだった。

久遠くんの優しさは、
私の痛みを否定しない優しさだった。

だからこそ、胸の奥が痛んだ。

自分は幸せを選んでいいのか。
琉生君を好きでいる自分が、久遠くんを頼っていいのだろうか。

答えはまだ出せない。
でも——
久遠くんの言葉が胸に触れた瞬間、
薄桃色の影がほんの少しだけ揺れた。

その揺れが、
優海の“気づけなかった時間”の終わりの始まりだった。