Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

麻衣が歩に惹かれたのは、
音大の頃だった。

友香と麻衣は音大、歩は美大に通っている頃だった。
3人はいつも一緒だった。
でも、歩は友香に惹かれ、友香も歩を好きになっていき、
麻衣は自分の気持ちを持て余していた。

歩はいつも誰かのためにピアノを弾いていた。
自分のためじゃなく、
誰かの心を軽くするために。

その姿が、麻衣にはどうしようもなく眩しかった。

「歩くんって……ほんと、優しいよね」

そう言うと、歩は照れたように笑った。

「優しいんじゃなくて、そういう人でいたいだけだよ」

その言葉が胸に落ちた瞬間、
麻衣は自分の気持ちを悟った。
でも、言わなかった。
言えば壊れるものがあると知っていたから。

歩が友香の話をするとき、
声が少しだけ柔らかくなる。
その変化に気づくたび、
麻衣は胸の奥がきゅっと痛んだ。

「……歩くん、友香ちゃんのこと好きなんだね」

麻衣がそう言うと、歩は少し照れながら笑った。

「うん。たぶん、ずっと前から」

その笑顔があまりにも綺麗で、
麻衣はそれ以上何も言えなかった。

歩が友香を愛していることを、
麻衣は誰よりも知っていた。
だからその恋は、決して口に出すことのない恋だった。