Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

結婚式から数日が経った。
家の中にはまだ、あの日の青い光の余韻が静かに残っていた。
深い青のラピスラズリが胸元で揺れた瞬間の記憶が、ふっと心の奥で温度を持って蘇る。

夕方の光が窓から差し込み、
部屋の空気を淡く照らしていた。
柚歩はソファに座り、
式の写真を一枚ずつゆっくりとめくっていた。

愛生がリングピローを抱えて歩く姿。
琉生が指輪をはめてくれた瞬間の光。
自分が誓いの言葉を紡いだ時の震え。
その全部が、胸の奥で静かに揺れていた。

「柚歩」

名前を呼ぶ声がして、
振り返ると、琉生が小さな箱を手にして立っていた。

白い箱。
淡い桃色のリボン。
ラピスラズリの深い青とは違う、柔らかい色がそこにあった。

「これ、渡したくて」

琉生は少し照れたように笑った。
その笑顔は、式の日の強い光とは違って、もっと穏やかで、未来の温度を宿していた。

柚歩は箱を受け取り、
ゆっくりとリボンをほどいた。

中にあったのは、
淡い桃色の石が静かに光るペンダントだった。

モルガナイト。
深い青ではなく、
柔らかい光を宿した宝石。

胸の奥がふっと揺れた。

「ラピスラズリは……あの日の青だと思ってる」

琉生は静かに言った。

「過去を越えて、未来へ踏み出すための青。
 君があの日、式場で見せてくれた強さの色」

柚歩は胸元のラピスラズリにそっと触れた。
深い青が、思い出のように静かに揺れる。

「でもね」

琉生は続けた。

「これから歩く未来は、
 もっと穏やかで、もっと柔らかい色だと思うんだ」

モルガナイトが夕方の光を受けてふっと揺れた。
淡い桃色が、部屋の空気に静かに溶けていく。

「痛みの影がない未来を、君と、愛生と一緒に歩きたくて」

その言葉は、
胸の奥に静かに落ちていった。

柚歩はペンダントを手に取り、その光を見つめた。

深い青ではなく、
淡い桃色の光。

強さではなく、
静かな幸福の光。

「……綺麗だね。ありがとう」

声が自然に出た。
喉の奥は震えなかった。
胸の奥も痛まなかった。

琉生はそっと柚歩の髪を撫でた。

「これからの未来の光を、
 君の胸元に置いてほしい」

柚歩はゆっくりと頷き、
モルガナイトのペンダントを胸元にかけた。

淡い光がふっと揺れ、
夕方の光と重なって静かに輝いた。

その瞬間、
胸の奥で何かがそっとほどけた。

過去の影が静かに遠ざかり、
未来の温度が確かにそこにあった。

琉生が手を伸ばし、柚歩の手をそっと握った。

強くない。
ただ、未来へ進むための温度だけを乗せて。

「これからも、一緒に歩こう」

柚歩は静かに頷いた。

その頷きは、
声よりも強く、
未来へ向かうための確かな一歩だった。

胸元のモルガナイトが淡く光り、“静かな幸福の始まり”として揺れていた。