Please let me hear your voice-君の声を聴かせてー

スタジオの空気は、夜の静けさを少しだけ含んでいた。
照明は落とされ、録音ブースだけが柔らかい光に包まれている。
柚歩はその中央に立ち、覆面の内側でそっと息を整えた。

視界は少し狭い。
けれど、息はしやすい。
覆面をつけているのに、心は広がっていく。

顔を出さないことで、声が自由になる。
姿を見せないことで、声が深く響く。
その感覚が、胸の奥で静かに確かめられていく。

喉の奥がふっと震えた。
それはもう痛みではなく、
歌う前に息を整えるときの、戻ってきた緊張だった。

「……柚歩」

ガラス越しに琉生が呼ぶ。
その声は、スタジオの冷たい空気をやわらかく溶かすように静かで、
柚歩の胸の奥にそっと触れた。

柚歩が振り向くと、
琉生は機材を確認しながら、あの日と同じように揺れなくて、ただまっすぐだった。

「声だけで十分だよ」

その一言が、覆面の内側に静かに染みていく。